個人で有料サービスを立ち上げようとしたとき、多くの人がつまずくのが「特定商取引法に基づく表記」の表示です。有料の商品やサービスをインターネットで販売する場合、事業者の氏名・住所・電話番号などを表示する義務がありますが、自宅を事務所代わりにしている個人事業主にとって、自宅の住所をインターネットに載せることには大きな抵抗があります。一人で活動している人や家族と同居している人にとっては防犯の問題でもあり、会社員として働きながら複業で始める人であれば、勤務先に知られることへの心配もあります。

機能はほぼ完成していて、あとは公開するだけなのに、特商法表示のページで手が止まる。この記事では、特定商取引法の条文と消費者庁の解説(通信販売広告Q&A)をもとに、表示義務を守りながら自宅住所を載せずに済む方法と、それぞれの条件を整理します。

先に要点をまとめます。

  • 住所と電話番号は、一定の条件のもとで表示を省略できます。条件は「請求があれば遅滞なく書面または電子メール等で提供する」旨を広告に表示し、実際に遅滞なく提供できる措置を講じていることです(特定商取引法第11条ただし書、消費者庁Q&A A17)。ここでの「遅滞なく」は、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供することを指します
  • 省略できるのは一部の項目だけで、範囲は施行規則第25条で決まっています。また、申込みの最終確認画面には、価格・支払の時期と方法・提供時期・申込みの撤回や解除に関する事項を、広告での省略とは別に表示する義務があります(同法第12条の6)
  • バーチャルオフィスの住所も、消費者庁が示す3つの措置(連絡先として使うことの合意、運営会社が本人の現住所と電話番号を把握、確実に連絡が取れる状態)がそろえば使えます。私書箱は「住所」の表示にならないとされています

条文と消費者庁の解説は2026年10月6日に確認しました。自分のサービスでの最終的な表示方法は、最新の消費者庁の解説を確認するか、行政書士・弁護士などの専門家に確認してください。

そもそも特商法表示はなぜ必要なのか

通信販売では、相手が実在するか、トラブルのときにどこへ連絡すればよいかが見えにくいため、特定商取引法が事業者に一定の情報の表示を求めています。法人だけでなく、個人事業主にも同じように適用されます。

特定商取引法第11条は、通信販売の広告に、価格、支払の時期と方法、引渡し(提供)の時期、申込みの撤回や解除に関する事項などを表示するよう定めています。事業者の氏名(名称)・住所・電話番号は、同条第6号を受けた施行規則第23条で表示事項とされています。

消費者庁のQ&A(A17)は、住所と電話番号を表示させる目的を「トラブルが生じた場合や消費者から問合せがある場合の対応等に備えるため」と説明しています。そのため、表示する「住所」は現に活動している住所、「電話番号」は確実に連絡が取れる番号である必要があるとしています。

無料のサービスや単なる情報発信のブログは、通信販売の広告に当たらないため基本的に対象外です。サブスクリプション、有料のデジタルコンテンツ、予約制の有料サービスなど、少額でも決済を伴うサービスを始めるなら、この表示は避けて通れません。特商法表示そのものの項目と書き方は、有料サービスに必要な特定商取引法の表示、何を書けばいいかで扱っています。

住所を表示しなくてよいのは、どんな条件のとき?

「請求があれば遅滞なく提供する」旨を広告に表示し、実際に遅滞なく提供できる体制を整えている場合です。この2つがそろえば、住所と電話番号の表示を省略できると消費者庁は説明しています。

根拠は特定商取引法第11条のただし書です。広告に「請求により、表示事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又は電磁的記録を遅滞なく提供する」旨を表示する場合は、表示事項の一部を表示しないことができると定めています。消費者庁のQ&A(A17)はこれを受けて、個人事業者が住所と電話番号の表示を省略することも可能だと明記しています。氏名(名称)についても同じ条件で省略できるとされています(A15)。

ここで注意したいのが「遅滞なく」の意味です。消費者庁は、「販売方法等の取引実態に即して、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されること」と説明しています。請求が来てから数日後に返信すればよい、という意味ではありません。利用者が申し込むかどうかを決める前に、住所や電話番号を確認できる状態にしておく必要があります。

本業を持ちながら運営していて、平日の日中にメールを確認できない場合は、人の手の返信を前提にしないほうが確実です。たとえば、請求フォームから送信された時点で、表示事項を記載したメールが自動で届く仕組みにしておく方法があります。

特商法表示で住所と電話番号を省略するための条件を示す図。広告に「請求があれば遅滞なく提供する」旨と請求方法を表示し、請求があれば申込みを決める前に住所・電話番号などを書面またはメールで届ける。申込みの最終確認画面には価格や解約の条件などを表示することを示す

省略しても、表示し続ける必要がある項目は?

広告で省略できる範囲は施行規則第25条で決まっています。それとは別に、申込みの最終確認画面には、価格・支払の時期と方法・提供時期・申込みの撤回や解除に関する事項を表示する義務があります(特定商取引法第12条の6)。

表示する場所ごとに整理すると、次のとおりです。

表示する場所根拠表示の扱い(概要)
広告(特商法表示のページなど)第11条ただし書、施行規則第25条請求により遅滞なく提供する旨を表示すれば、一部を省略できる。負担する金額をすべて表示する場合は、氏名・住所・電話番号などを省略の対象にできる。前払いの場合の支払時期など、省略できない項目もある
申込みの最終確認画面第12条の6分量、価格、支払の時期と方法、提供時期、申込みの期間(定めがある場合)、申込みの撤回・解除に関する事項を表示する

個人のWebサービスでは、料金を表示したうえで、氏名・住所・電話番号を「請求があれば遅滞なく提供します」に置き換える形が現実的です。料金や解約の条件まで広告から消してしまうと、申込み画面での表示義務を満たせなくなります。返金と解約の条件の決め方はサブスクの返金・解約条件の決め方で扱っています。

なお、氏名を表示する場合は、個人事業者なら戸籍上の氏名を表示する必要があり、屋号やサイト名だけでは認められないとされています(A16)。屋号で活動している人は、表示欄に屋号と氏名の両方を書くか、氏名も上の省略の仕組みに含めるかを決めておきます。

個人事業主が選べる3つの方法と、それぞれの条件は?

自宅住所を載せない方法は、①省略して請求時に提供する、②バーチャルオフィスなどの住所を表示する、③実際に活動している自宅以外の拠点の住所を表示する、の3つです。どれも消費者庁が示す条件を満たすことが前提です。

方法1:省略して、請求があれば提供する

上で説明した特定商取引法第11条ただし書の仕組みです。追加の費用がかからず、自宅住所をサイトに載せずに済みます。

条件は、広告に「請求があれば遅滞なく提供する」旨と請求方法(フォームやメールアドレス)を表示すること、そして申込み前に十分な余裕をもって提供できる体制を整えることです。請求に応じて提供する住所自体は、現に活動している住所である必要があります。省略は「載せ方」を変える仕組みで、提供する住所の要件が緩くなるわけではありません。

開示を求めてくる人に自宅住所が伝わる点は残ります。請求者が限られるとはいえ、自宅住所を誰にも知られたくない場合は、方法2と組み合わせることになります。

方法2:バーチャルオフィスなどの住所を表示する

消費者庁のQ&A(A18)は、個人事業者がバーチャルオフィスの住所と電話番号を表示することについて、次の措置が講じられていれば特定商取引法の要請を満たすと考えられるとしています。

  1. バーチャルオフィスの住所と電話番号を、通信販売の取引の連絡先として使うことについて、個人事業者とバーチャルオフィス運営会社が合意している
  2. 運営会社が、個人事業者の現住所と本人名義の電話番号を把握している
  3. 運営会社と個人事業者の間で、確実に連絡が取れる状態になっている

あわせて、個人事業者・運営会社のどちらかが不誠実で、消費者から連絡が取れない事態になれば、表示義務を果たしたことにはならないとも書かれています。契約の前に、特商法表示の連絡先としての利用を認めているか、郵便物や電話の転送がどう行われるかを運営会社に確認してください。

同じQ&Aは、利用しているプラットフォーム(販売の場を提供する事業者)の住所と電話番号を表示する場合についても、取引がそのプラットフォーム上で行われることを含めて同様の条件を示しています。自分でサイトを作って販売する場合は、この条件に当たらない点に注意が必要です。

費用は月額で継続的にかかります。郵便物の転送に日数がかかるサービスでは、行政や取引先からの書類に気づくのが遅れることもあります。銀行口座の開設や決済サービスの審査で、事業の実態を詳しく確認される場合もあるため、利用予定の決済サービスの審査条件もあわせて確認しておくと安心です。

私書箱は使えません。消費者庁のQ&A(A19)は、住所は営業上の活動の拠点となる場所を指し、私書箱を表示しても「住所」の表示をしたことにはならないとしています。

方法3:実際に活動している自宅以外の拠点の住所を表示する

店舗や事務所、コワーキングスペースの個室など、自宅とは別に実際に仕事をしている拠点があれば、その住所を表示できます。専門職の人が既に事務所の住所を公表している場合も、これに当たります。

一方で、実家や知人の住所を「借りて」表示する方法は、勧められません。消費者庁は表示する住所を「現に活動している住所」としているため、そこで活動していない住所を表示すると、この要件を満たさないおそれがあります。実家で実際に事業を営んでいるなど事情がある場合は、表示の前に専門家に確認してください。

3つの方法の比較

自宅住所を載せない3つの方法の比較図。省略して請求時に提供する方法は費用がかからないが申込み前に提供できる体制が必要、バーチャルオフィスは月額費用がかかり消費者庁が示す3つの措置が必要、自宅以外の活動拠点の住所は実際にその場所で活動していることが条件。私書箱は住所の表示にならないことも示す

方法費用満たす条件向いている状況
1. 省略して請求時に提供なし請求方法の表示と、申込み前に提供できる体制固定費を増やしたくない立ち上げ初期
2. バーチャルオフィス月額費用A18の3つの措置(合意・本人の現住所等の把握・確実な連絡)請求者にも自宅住所を伝えたくない
3. 自宅以外の活動拠点拠点の費用実際にその場所で活動していること店舗・事務所を既に持っている

方法1と方法2は組み合わせることもできます。サイトには「請求があれば提供します」と表示し、請求に対してはバーチャルオフィスの住所を提供する形です。この場合も、バーチャルオフィスはA18の3つの措置を満たしている必要があります。

住所以外にも気をつけたい「間接的に自宅が特定される」情報は?

表示ページで住所を工夫しても、返信メールの署名や写真の位置情報から自宅が推測されることがあります。表示ページ以外にも同じ配慮を広げておきます。

一つ目は、問い合わせへの返信メールに、自宅の固定電話番号や住所入りの署名を入れてしまうケースです。特商法表示の本文を工夫していても、日々のやり取りで情報が出てしまいます。

二つ目は、サービス紹介ページやSNSに投稿した写真に、自宅の窓からの景色や特定できる建物が写り込んでいるケースです。撮影場所の位置情報(EXIF情報)が埋め込まれたままの画像をアップロードすると、住所の手がかりを与えることがあります。写真を公開する前に、位置情報を削除し、特定できる背景を避けてください。

三つ目は、請求書や領収書のテンプレートに、表示していないはずの自宅住所を記載し、それが取引先経由で広がるケースです。特商法表示に使う住所と、請求書などに記載する住所を分けて運用する場合は、書類ごとにどの住所を使うかを先に決めておきます。

これらは特商法そのものの論点ではありませんが、「自宅の住所を公開したくない」という目的を達するには、表示ページの外も含めて確認が必要です。

よくある失敗パターンは?

表示ページ自体を作らない、省略の条件を満たさないまま住所を消す、請求への返信が申込み後になる、の3つが典型です。

失敗パターン1:表示自体を丸ごと省略してしまう

「住所を出したくないから、特商法表示のページ自体を作らない」という判断です。表示義務がある取引で表示を怠ると、法令違反になります。住所の載せ方は工夫できても、表示義務そのものはなくなりません。

失敗パターン2:「請求があれば提供します」の一文や請求方法を書かずに住所だけ消す

省略の仕組みは、請求により遅滞なく提供する旨を広告に表示することが前提です。この表示と請求方法がないまま住所を消すと、単なる表示漏れになります。料金や解約の条件まで一緒に消してしまうと、申込みの最終確認画面での表示義務(第12条の6)を満たせなくなります。

失敗パターン3:請求への返信が、申込みの判断に間に合わない

「遅滞なく」は申込みの意思決定より前に十分な余裕をもって提供することを指します。週末にまとめてメールを確認する運用だと、この基準を満たせないことがあります。自動返信など、人の手を待たずに届く仕組みにしておくと確実です。

失敗パターン4:バーチャルオフィスの契約内容を確認していない

特商法表示の連絡先としての利用が契約で認められているか、運営会社が本人の現住所と電話番号を把握しているかを確認しないまま使い始めるケースです。A18の措置を満たしていることを、契約書類で説明できるようにしておきます。

チェックリスト:住所の載せ方を決める前に確認したいこと

  • [ ] 自分のサービスが、有料の通信販売として特商法の表示義務の対象になるかを確認したか
  • [ ] 省略する場合、「請求があれば遅滞なく提供する」旨と請求方法を表示しているか
  • [ ] 請求に対して、申込みの判断より前に提供できる仕組み(自動返信など)を用意したか
  • [ ] 申込みの最終確認画面に、価格・支払の時期と方法・提供時期・解約などの条件を表示しているか
  • [ ] 請求があったときに提供する住所は、現に活動している住所か
  • [ ] バーチャルオフィスを使う場合、A18の3つの措置(合意・現住所等の把握・確実な連絡)を契約で確認したか
  • [ ] 私書箱を住所として表示していないか
  • [ ] 氏名を表示する場合、屋号だけでなく戸籍上の氏名を表示しているか
  • [ ] 返信メールの署名、写真の位置情報、請求書の住所から自宅が分からないか
  • [ ] 法改正や消費者庁の解説の更新を確認する時期を決めているか

立ち上げから公開までの流れは?

表示義務の対象かを確かめ、住所の載せ方を決め、請求への対応の仕組みを作ってから、表示ページ全体を公開します。

ステップ1:自分のサービスが表示義務の対象かを確認する

有料の通信販売として特商法の対象になるかを確認します。無料で提供する段階なら、この論点自体が生じないこともあります。

ステップ2:3つの方法のうち、どれにするかを決める

収益の見込み、家族構成、請求者に自宅住所を伝えてよいかで選びます。迷う場合は、費用のかからない方法1から始め、事業が伸びてきた時点で方法2や3へ切り替える進め方もあります。

ステップ3:請求への対応の仕組みを作る(方法1を選ぶ場合)

請求フォームと、表示事項を記載した自動返信メールを用意します。返信に記載する住所と電話番号が要件を満たしているかも、この段階で確認します。住所の公開への抵抗感からこの手続きで足が止まる場合の考え方は、特商法の住所公開に抵抗があるとき、対処してでも進めるべきかでも扱っています。

ステップ4:表示ページ全体を作成する

氏名、連絡先、価格、支払方法、提供時期、返品・解約の条件など、住所以外の項目も漏れなく記載します。

ステップ5:専門家への確認と公開

省略の範囲や自分のサービスの取引形態に迷いがある場合は、公開前に行政書士や弁護士に表示ページを見てもらいます。

サブペルソナ別に考える住所公開の悩み

勤務先に知られたくない会社員、店舗を持つ経営者、まず小さく試したい人で、選びやすい方法が変わります。

本業の勤務先に事業の存在を知られたくない会社員の場合は、方法1か方法2が候補になります。方法1では請求者に自宅住所が伝わるため、その点も避けたい場合は方法2の組み合わせを検討します。

店舗を経営している人が、店舗の業務改善のために作ったツールを他店にも提供する場合は、既に公表している店舗の住所を表示する方法3が自然な選択になることがあります。オンラインサービスの窓口を店舗運営と分けたい場合は、問い合わせ先のメールアドレスやフォームを別に用意します。

まず小さく検証したい段階では、収益が見えないうちに固定費を増やしたくないことが多いため、方法1から始め、事業が伸びてきたら方法2に切り替える段階的な進め方が向いています。

専門知識を活かしたツールの場合は?

既に事務所の住所を公表している専門職は、その住所を使えます。業法や所属団体の規定で、広告や事務所所在地の表示に独自のルールがないかもあわせて確認してください。

士業や医療職など、専門資格を活かしたサービス(オンライン相談、専門知識に基づく有料コンテンツなど)を個人で立ち上げる場合、税理士事務所・社労士事務所のように既に事務所の住所を対外的に公表しているなら、その住所を特商法表示に使うかどうかを検討することになります。オンラインサービスの窓口を既存の実務と分けたい場合は、専用の問い合わせフォームを別に用意する方法もあります。

専門職の場合は、業法や所属団体の会則で、広告表示や事務所所在地の表示に独自のルールが定められていることがあります。特商法の要件を満たしていても、所属団体の規定に合わない表示になっていないかを確認してください。業種ごとの確認先は士業・専門職がサービスを作る際に確認すべき業法上の制約で整理しています。

専門職としての信用を重視するサービスでは、住所を完全に伏せることより、どこまで開示すれば利用者が安心して申し込めるかという視点で考えることも大切です。

まとめ:載せ方は選べるが、提供できる住所と体制は必要

  • 住所と電話番号は、「請求があれば遅滞なく提供する」旨を表示し、申込み前に提供できる体制があれば、表示を省略できる(特定商取引法第11条ただし書、消費者庁Q&A A17)
  • 省略できる範囲は施行規則第25条で決まっており、申込みの最終確認画面には価格や解約の条件などを表示する(第12条の6)
  • バーチャルオフィスは3つの措置がそろえば使える。私書箱は住所にならない(A18・A19)
  • 提供する住所は、現に活動している住所である必要がある

次に表示ページを作るときは、まず請求フォームと自動返信の文面を用意し、返信に載せる住所が上の条件を満たしているかを確かめてください。

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