マッチングアプリ、専門家への相談サービス、他の店にも使ってもらう予約ツール。こうしたサービスに利用者同士でメッセージを送り合える機能を付けようとすると、「電気通信事業の届出」という言葉に行き当たることがあります。携帯電話会社やプロバイダーの話に聞こえますが、総務省の整理では、個人が作る小さなWebサービスでも対象になる場合があります。

この記事では、総務省の「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」(2023年1月30日改定)と電気通信事業法の条文をもとに、どんな機能を付けると届出が必要になるのか、手続きと届出後に守ることを、設計の段階で確認できる形にまとめます。

先に要点をまとめます。

  • 利用者が相手を指定して送るメッセージを仲介する機能を、収益事業として提供する場合は、個人でも、サービスの一部の機能であっても、届出が必要な電気通信事業と判断されます。マニュアルは、マッチングサイト・アプリ、閉じたチャットルーム、サービスの一部として付けた利用者間のメッセージ機能を、いずれも登録または届出が必要な例に挙げています
  • 運営者への問い合わせフォームやAIチャットボット、宛先を指定しない掲示板・投稿欄は、それだけなら届出は不要とされています(掲示板やSNS型の投稿の場は、月間アクティブ利用者が平均1,000万以上の規模になる場合を除く)
  • 届出は事業を始める前に、住所地を管轄する総合通信局へ出します。届出をせずに営むと罰則(6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。電気通信事業法第185条)があるため、メッセージ機能を付けるかどうかは、見積もりを取る前の設計段階で決めておくと手戻りが減ります

この記事の内容は、2026年10月6日時点で確認した法令と総務省の公開資料に基づいています。自分のサービスが該当するかの最終的な判断は、管轄の総合通信局に確認してください。

電気通信事業の届出とは?

他人どうしの通信を仲介するサービスなどを事業として始める人が、事前に総務大臣へ出す手続きです(窓口は各地の総合通信局)。電気通信事業法第16条に定められていて、通信回線の設備を自分で持たないWebサービスは、多くの場合「登録」ではなくこの「届出」の対象になります。

電気通信事業法は、電気通信事業を営もうとする人に、事前の「登録」(第9条)か「届出」(第16条)のどちらかを求めています。どちらになるかは、通信回線の設備を自分で設置するか、設置する場合はその範囲がどこまで広いかで決まります。マニュアルでは、サーバーやルーターのような回線以外の機器だけを置いてサービスを提供する場合は「届出」と整理されています。クラウドのサーバーを借りてWebサービスを動かす個人の立ち上げは、こちらに当たると考えてよいでしょう。

マニュアルには、個人か法人かで扱いを分ける記述はありません。手続きの窓口も「法人であれば本店所在地、個人であれば個人の住所」で管轄の総合通信局が決まると書かれており、個人が届け出ることを前提にしています。

届出が必要になる機能と、ならない機能は?

分かれ目は、利用者が相手(宛先)を指定して送ったメッセージを、内容を変えずに相手へ届けるかどうかです。マニュアルはこれを「他人の通信の媒介」と呼び、オンラインサービスについては「情報の加工・編集を行わず、かつ、通信の宛先として受信者を指定する場合」に該当すると説明しています。

マニュアルに載っている事例を、個人の立ち上げで出てきやすい機能に絞って並べると次のとおりです。

機能・サービスの形マニュアルの判断理由
利用者同士の個別メッセージ・チャット(主な機能でも、一部の機能でも)登録または届出が必要他人の通信を媒介している
マッチングサイト・アプリ(相手の情報を見て、メッセージを送り合う)登録または届出が必要同上
特定の利用者だけが入れるチャットルーム、オンライン会議、ゲーム内チャット登録または届出が必要同上
ファイル共有に、保存したことや保管先を相手に知らせるメッセージ機能を付ける登録または届出が必要通知の部分が媒介に当たる
運営者への問い合わせフォーム、AIチャットボット電気通信事業に当たらない自分の業務のための通信(自己の需要)
自分の商品・サービスのオンライン販売、自分の情報を発信するサイト電気通信事業に当たらない同上
掲示板・SNS型の投稿の場、ECモールやフリマの「場」の提供(メッセージ機能なし)登録・届出は不要宛先を指定しないため媒介に当たらない(月間アクティブ利用者が平均1,000万以上の場合などを除く)

自分のサービスに電気通信事業の届出が必要かを判断するフロー図。利用者が相手を指定してメッセージを送り、内容を変えずに届ける機能があるかを最初に確認し、ない場合は届出不要(外部送信規律などは別途確認)、ある場合は料金や広告収入など利益を得る事業かを確認し、得ない場合は該当しない、得る場合は事業開始前に総合通信局へ届出、と分かれる

見落とされやすいのは、表の1行目にある「一部の機能でも」の部分です。マニュアルは、主なサービスが利用者間のメッセージのやり取りではなく、サービスの一部としてその機能を持たせている場合も、登録または届出が必要と判断しています。ECモールや掲示板の事例でも、「場」の提供だけなら届出不要としたうえで、利用者間のメッセージを仲介する機能を付けている場合は届出が必要になると書かれています。

たとえば、講座の予約サービスに「予約した人と講師が個別にやり取りできるメッセージ欄」を付けると、予約が主な機能であっても、この考え方に当てはめれば届出が必要な側に入ります。

逆に、届出が不要な側に入っても、電気通信事業法と無関係になるわけではありません。届出不要とされる事業(いわゆる第三号事業)にも、通信の秘密の保護が適用され、一部の事業には利用者の情報を外部へ送るタグについての規律(外部送信規律)がかかります。外部送信規律の確認方法は公開前に用意する利用規約・プライバシーポリシーの最低ラインで整理しています。

無料のサービスや試しの公開でも、届出は必要?

判断の基準は、料金の有無そのものより、その通信サービスで利益を得ようとしているか(電気通信事業を「営む」か)です。無料でも広告収入などで実質的に利益を得る場合は該当し、無料で収入も得ていない場合は該当しないとされています。

マニュアルは、電気通信事業を「営む」ことを、通信サービスを反復継続して提供し、その対価で利益を得ようとすることと定義しています。現実に黒字になっているかは問われません。料金を取っていなくても、広告収入を得るなど実質的に利益を上げているとみなされるときは「営む」に当たります。一方、個人が友人など限られたメンバーのために、無料で、広告などの収入も得ずに運営するメールサービスは、「営む者に該当しない」例として挙げられています。

自己資金でサービスを立ち上げる場合、最終的には有料化や広告などで収益を得る計画のはずです。マッチングや相談の仲介に料金を取るなら、最初の公開の時点で「営む」側に入ると考えておくのが無理のない前提です。

検証の段階については、マニュアルは「事業」に当たらないものの例として「試験的又は一時的に提供するもの」を挙げています。ただし、利用者を広く募集し、そのまま本番の運営へつなげる予定の公開まで「試験的」と扱えるかは、マニュアルからは読み取れません。テスト公開の範囲・期間・料金の有無を説明できる形にまとめ、総合通信局に確認してから公開してください。

需要を確かめる段階で、メッセージ機能が本当に必要かを見直すのも一つの方法です。予約の確定や申し込みの受付だけで検証できるなら、利用者同士のやり取りは公開後の機能追加に回す、という順番も取れます。その場合は、機能を追加する前に届出を済ませる段取りを開発計画に入れておきます。

自分の店のツールを、他の店にも使ってもらうと何が変わる?

自分の店の予約やお知らせのために使っている間は、自分の業務のための通信です。他の店がそのツールで自分の顧客とやり取りできるようにすると、他人どうしの通信を仲介する側に回ることがあります。

マニュアルの事例で比べると、この違いがはっきりします。企業が自社の宣伝やイベント案内を、登録した顧客にメールで送る「メールマガジンの発行」は、自分の業務のための通信として電気通信事業に当たりません。一方、企業から受け取った案内を、内容を変えずに購読者へメールやSMSで送る「メールマガジンの媒介」は、登録または届出が必要な例に入っています。利用者間のメッセージを仲介するアプリやSaaSも同じく届出等が必要とされています。

店舗向けの自作ツールに当てはめると、次のように分かれます。

ツールの使われ方当てはまりやすい側
自分の店の予約受付と、自分の店から顧客へのお知らせ自分の業務のための通信(電気通信事業に当たらない)
他の店が使う予約システム。システムが作る予約確認の通知だけを送る他人の通信の媒介には当たりにくい(運営者のシステムと利用者の通信)
他の店が書いたお知らせを、その店の顧客へそのまま配信する機能「メールマガジンの媒介」に近く、届出が必要な側
他の店のスタッフと顧客が個別にやり取りするチャット利用者間のメッセージの媒介として、届出が必要な側

2行目は、マニュアルの事例に照らした整理で、個別の判断は総合通信局で確認が必要です。他の店への展開を考え始めた段階で、どの機能をどの店が使うのかを書き出しておくと、確認の相談がしやすくなります。複数の店で使えるツールに作り直すときの考え方は複数店舗で使えるツールにする、マルチテナント化の基本で扱っています。

専門職の人が作る相談サービスでも、同じ線が引けます。自分が利用者からの相談に答えるチャットは、運営者と利用者の間の通信で、他人どうしの通信の仲介には当たりません。一方、相談者が複数の専門家の中から相手を選び、専門家と直接メッセージを交わす仕組みにすると、マッチングと同じ側に入ります。資格が必要な業務をアプリで提供してよいかという業法の論点は、これとは別に資格が必要な業務を、アプリ経由で提供してよいかの境界線で確認してください。

届出の手続きは、どう進める?

事業を始める前に、届出書類を住所地を管轄する総合通信局へ提出します。郵送・持参のほか、電子的な方法での提出も可能で、一部の手続きはe-Govの電子申請に対応しています。

総務省の「届出書類(届出電気通信事業)のダウンロード」ページに載っている、事業開始時の提出書類は次のとおりです。

書類内容
電気通信事業届出書(様式第8)氏名・住所、業務区域などを書く届出書。回線を設置しない事業者向けの記載例がある
ネットワーク構成図(様式第3)サービスがどの設備でどうつながっているかの図
提供する電気通信役務に関する書類(様式第4)提供するサービスの内容の説明
住民票の写し(コピー不可)届出者が個人の場合
定款の写し届出者が法人の場合

様式第3と第4には役務別の記載例も用意されています。郵送する場合、申請・届出書類は信書にあたるため宅配便やメール便では送れないこと、通知書を受け取るために切手を貼った返信用封筒を同封することが、同じページに書かれています。

費用について、マニュアルが登録免許税の納付を求めているのは、新規の「登録」をする場合です。

届出をせずに電気通信事業を営んだ場合、電気通信事業法第185条により6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。すでにメッセージ機能付きのサービスを公開していて、届出をしていないことに気づいた場合は、そのまま運営を続けず、管轄の総合通信局に状況を説明して対応を相談してください。

ネットワーク構成図やサービスの説明は、どのクラウドサービスを使い、どこでデータを受け取ってどこへ届けるかが分かっていないと書けません。外注している場合は、開発会社に構成図の元になる情報を出してもらう段取りを、契約の段階で決めておくと進めやすくなります。

届出をしたあと、何を守る?

届け出た事業者には、通信の秘密の保護に加えて、届出内容が変わったときの変更届、事業をやめるときの廃止届と利用者への周知などの義務がかかります。

総務省が届出事業者向けにまとめた資料(2024年8月)と電気通信事業法から、個人の小さなサービスでも関わりやすいものを挙げます。

  • 通信の秘密の保護と検閲の禁止(第3条・第4条):利用者が送ったメッセージの内容などを、正当な理由なく見たり、他人に漏らしたりしない
  • 届出事項の変更:氏名・住所・電話番号・メールアドレスが変わったときは変更の届出(第16条第2項)。提供するサービスを変えたときは変更の報告
  • 事業の休止・廃止:休止・廃止したときは遅滞なく届出(第18条)。業務を休止・廃止しようとするときは、原則として休廃止日の30日前までに利用者へ周知(利用者への影響が比較的少ない場合は対象外)
  • 事故の報告:設備の故障などでサービスが止まった場合の報告制度があり、報告の対象や期限は事故の規模によって定められている

利用者のメッセージは、運営者にとっても扱いに注意が要るデータです。不適切な投稿への対応や不具合の調査でメッセージの内容を確認する場面がありうるなら、どの場合に誰が確認するのかを利用規約と社内の手順で先に決めておきます。万一の情報漏えいへの備え方は個人開発でも用意しておきたい、情報漏えい時の対応方針で整理しています。

開発会社に相談するときは、何を伝えればいい?

届出をするかどうかは、開発会社ではなく、サービスを運営する本人の義務です。要件をまとめる段階で、メッセージ機能の有無と、誰と誰がやり取りするのかを書き出してから相談してください。

相談の前に、次の5点をメモにしておくと、見積もりと届出の準備を並行して進められます。

  1. 利用者同士が直接やり取りする機能があるか(チャット、メッセージ欄、通知付きのファイル共有など)
  2. 誰と誰の間のやり取りか(利用者同士、店舗と顧客、専門家と相談者、運営者と利用者)
  3. 運営者がメッセージの内容を加工・編集するか、それとも送られた内容をそのまま届けるか
  4. 公開の時期と、料金・広告収入の有無(届出を公開日までに済ませる段取りのため)
  5. 届出の名義(個人で始めるか、法人化の予定があるか)

開発会社には、このメモをもとに「ネットワーク構成図を作るための情報(使うクラウドサービス、データの流れ)を出してもらえるか」を確認しておくと、届出書類の作成で手が止まりにくくなります。法律が関わる機能全般を誰に頼むかの考え方は法律が関わる機能(決済・契約周り)を専門家に頼む理由を参照してください。

まとめ:メッセージ機能を付けるかどうかを、設計の段階で決める

  • 利用者が相手を指定して送るメッセージを、内容を変えずに届ける機能は「他人の通信の媒介」に当たり、収益事業として提供するなら個人でも届出が必要と判断されます。主な機能でなく一部の機能でも同じです
  • 運営者への問い合わせ、AIチャットボット、宛先のない掲示板・投稿欄は、それだけなら届出は不要とされています。ただし通信の秘密や外部送信規律は別に確認が要ります
  • 自分の店のツールを他の店に開くと、他の店とその顧客の通信を仲介する側に回ることがあります
  • 届出は事業開始前に、住所地を管轄する総合通信局へ。届出書・ネットワーク構成図・サービスの説明書類・住民票の写しが基本です

いま設計している機能の一覧に、利用者同士のやり取りが含まれているかを印を付けて確認してください。該当する機能があれば、サービスの説明を添えて管轄の総合通信局に問い合わせるのが、公開前にできる確実な確認です。