機能もデザインもそろって、いよいよ公開できる段階になってから「利用規約とプライバシーポリシーは、どこまで用意すればいいのか」と手が止まる人は少なくありません。法務の準備は後回しにされやすく、公開直前にテンプレートを探して慌てて貼り付ける、という進め方になりがちです。この記事では、個人で立ち上げるサービスが公開前にそろえておく最低ラインを、法律が求めていることと、トラブルを防ぐために用意しておくことに分けて整理します。
先に要点をまとめます。
- 個人で運営していても、事業として利用者の個人情報を扱うなら個人情報保護法の対象です。 利用目的の公表と、保有する個人データについての事項(運営者・利用目的・開示などの請求の手続など)を利用者が知り得る状態にしておく必要があり、これをまとめて書いたものがプライバシーポリシーです
- 利用規約は、作成そのものを一般的に義務づける法律はありません。 ただし、規約の内容を利用者との契約内容にするには、民法の「定型約款」のルールに沿って、合意を得るか、契約内容にすることをあらかじめ示しておく必要があります。公開後に変更するときの周知方法も民法で定められています
- アクセス解析や広告のタグを入れる場合は、サービスの種類によって電気通信事業法の外部送信規律が関わります。有料化するときは特定商取引法の表示が加わります
この記事の内容は、2026年10月2日時点で施行されている法令に基づいています。
公開前に、法律上そろえておくものは何?
利用者の個人情報を扱うなら、プライバシーポリシーに相当する公表は公開前に必要です。利用規約は法律上の作成義務ではありませんが、規約を契約内容として使うための手順は民法で決まっています。
| 文書・表示 | 主な根拠 | 公開前に必要か |
|---|---|---|
| プライバシーポリシー(利用目的・保有個人データに関する事項) | 個人情報保護法 第21条・第32条 | 個人情報を扱うなら必要 |
| 利用規約 | 民法 第548条の2〜第548条の4(定型約款) | 法律上の作成義務はないが、利用条件で揉めないために用意する |
| 外部送信に関する公表 | 電気通信事業法の外部送信規律 | 対象となるサービスで、外部へ情報を送るタグ等を使う場合 |
| 特定商取引法に基づく表記 | 特定商取引法 | 有料で提供する場合 |
「個人で小さくやっているから対象外」と考えがちですが、個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」は、個人情報データベース等を事業の用に供している者と定められています(第16条第2項)。法人か個人か、扱う人数の多さで線が引かれているわけではありません。会員登録でメールアドレスを集め、一覧で管理しているサービスは、この定義に当てはまると考えて準備してください。
プライバシーポリシーに、最低限書くことは?
取得する情報と利用目的、第三者への提供の扱い、運営者の名前と問い合わせ先、開示などの請求を受け付ける手続の4点が土台です。条文では、利用目的の公表(第21条)と、保有個人データについての事項を本人の知り得る状態に置くこと(第32条)が求められています。
| 書く項目 | 中身の例 | 関係する条文 |
|---|---|---|
| 取得する情報 | 氏名、メールアドレス、予約内容、決済の記録など | 第21条(利用目的と合わせて示す) |
| 利用目的 | 予約の受付と確認連絡、サービス改善のための集計など | 第21条・第32条 |
| 第三者への提供 | 原則として本人の同意なく提供しないこと、例外の扱い | 第27条 |
| 運営者の名前と問い合わせ先 | 事業者の氏名または名称、住所、連絡先 | 第32条 |
| 開示などの請求の手続 | 本人から開示・訂正・利用停止などを求められたときの受付方法 | 第32条 |
個人で運営する人がつまずきやすいのが住所です。第32条は、運営者の氏名・住所などを「本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)」に置くよう定めています。条文上は、求めがあれば遅滞なく回答できる体制を取る形も含まれています。具体的な運用は個人情報保護委員会のガイドラインで確認し、判断に迷う場合は専門家に相談してください。なお、有料サービスで求められる特定商取引法の表記は別のルールで、住所の扱いは個人事業主が特商法表示で住所を公開したくない場合の対処法で整理しています。
個人情報を一切取得しないサービス(ログイン不要で、入力内容も保存しない計算ツールなど)であれば、個人情報保護法上の公表義務は生じにくくなります。それでも「このサービスは個人情報を取得していません」と明記しておくと、利用者の不安に先回りできます。問い合わせフォームを後から追加するとメールアドレスを取得することになるため、機能を足すたびにこの一文が実態と合っているかを見直してください。
各項目をどこまで詳しく書くかは個人開発サービスのプライバシーポリシー、何をどこまで書くかで、取り扱いの実務は個人情報を扱うサービスで、最低限守るべきルールで扱っています。
利用規約は、作らないと何が困る?
利用規約がないと、禁止したい使い方や退会の扱い、不具合が起きたときの責任の範囲を、利用者と事前に決めていない状態で運営することになります。規約を作っても、利用者との契約内容にする手順を踏んでいなければ、トラブルの場面で根拠として使いにくくなります。
不特定多数の利用者に同じ条件で提供するWebサービスの利用規約は、民法の「定型約款」に当たることが多いと考えられます。民法第548条の2は、定型約款を契約の内容とすることに合意したとき、または準備した側があらかじめ契約内容とすることを相手方に表示していたときに、個別の条項にも合意したものとみなすと定めています。会員登録の画面に「利用規約に同意する」のチェックと規約へのリンクを置くのは、この合意を形に残すための手順です。
公開前に入れておきたい条項は、次の5つです。
- サービスの内容:何を提供し、何を提供しないか
- 禁止事項:不正アクセス、他の利用者への迷惑行為、転売など、起きてほしくない使い方
- 免責事項:不具合や停止が起きたとき、運営者が責任を負う範囲
- 退会・利用停止:利用者が退会する方法と、運営者が利用を止められる場合
- 規約の変更:変更することがある旨と、変更するときの周知方法
ただし、利用者の権利を一方的に制限したり義務を重くしたりする条項で、信義則に反して利用者の利益を一方的に害すると認められるものは、合意しなかったものとみなされます(第548条の2第2項)。また、利用者が一般の消費者であれば消費者契約法も関わり、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項は無効とされています(同法第8条)。「いかなる場合も一切責任を負わない」のような書き方をテンプレートから写すと、これらの規定にかかるおそれがあります。条項ごとの書き方は利用規約に必ず入れておきたい条項(免責・禁止事項・退会)で詳しく扱っています。
サービスの形によって追加したい条項もあります。
- 利用者同士がやりとりする機能がある:利用者間のトラブルに運営者がどこまで関わるか、アカウントを止める基準
- 予約・申込を受け付ける:キャンセルの期限と扱い
- 無料プランと有料プランがある:プランごとの提供範囲、有料プランの解約方法、料金を変えるときの予告
- 自作ツールを複数の店舗に提供する:店舗ごとのデータを他の店舗から見えないように扱うこと
アクセス解析や広告のタグを入れたら、何を書き足す?
電気通信事業に当たるサービスで、利用者の端末から外部へ情報を送るタグやプログラムを使う場合は、送る情報の内容・送り先・利用目的を通知または公表する必要があります。2023年6月16日に施行された電気通信事業法の外部送信規律です。
総務省の案内では、主な対象として、メッセージを媒介するサービス、SNS、検索サービス、ニュースサイトやまとめサイトのような各種情報のオンライン提供が挙げられています。一方で、自社商品等のオンライン販売のためのホームページや、企業等のホームページ・個人ブログは電気通信事業に該当しないため対象外とされています。利用者同士が投稿し合う掲示板型のサービスや、情報を集めて配信するサービスを作る場合は、自分のサービスが対象かを総務省のフローチャートで確認してください。
対象になる場合に公表する事項は3つです。
- 送信される利用者の情報の内容
- その情報を取り扱う者の氏名または名称(アクセス解析ツールの提供会社など)
- その情報の利用目的
公表の方法として、日本語で、専門用語を避けた平易な表現にすること、外部送信を行うページかそこから容易にたどれるページに表示することが示されています。サービスの提供に必要な情報(ログイン認証やセキュリティ対策に必要な情報など)の送信は、公表が不要とされています。プライバシーポリシーの中に「外部送信について」の項目を設けて、使っているツールごとに3つの事項を並べておくのが、個人のサービスでは扱いやすい形です。
テンプレートやAIの下書きを使うとき、何を確認する?
テンプレートもAIの下書きも、自分のサービスが実際に何を取得し、どこへ渡しているかと一致しているかを1項目ずつ照らし合わせて使います。作る前に、自分のサービスの実態を箇条書きにしておくのが近道です。
書き始める前に、次の項目を書き出してください。
- 取得する情報(登録フォームの項目、予約・決済の記録、問い合わせの内容)
- 情報を保存している場所(データベース、メール配信サービス、スプレッドシートなど)
- 使っている外部サービス(決済、メール送信、アクセス解析、広告)
- 有料か無料か、有料化の予定はあるか
テンプレートから写したときによく起きるのは、取得していないクレジットカード番号が「取得する情報」に残っている、逆に実際に使っているアクセス解析ツールが書かれていない、他社のサービス名がそのまま残っている、といった食い違いです。AIに下書きを頼む場合も、上の書き出しを渡したうえで、出てきた文書を同じ一覧と突き合わせてください。完成したら、家族や知人に一度読んでもらうと、利用者の目で分かりにくい箇所が見つかります。
作った文書は、フッターと会員登録画面の両方からリンクしておきます。登録時の同意チェックと合わせて、利用者がいつでも読める場所に置いておくことが、定型約款の合意の手順にもつながります。
公開後に変えるときは、何をすればいい?
利用規約を利用者の個別の同意なしに変えるには、民法第548条の4の要件を満たし、効力が生じる日を決めて、変更する旨・変更後の内容・効力発生日をインターネットなどで周知します。プライバシーポリシーの利用目的を変えたときは、変更後の利用目的を本人に通知するか公表します。
民法第548条の4は、利用者の一般の利益に合う変更か、契約の目的に反せず、変更の必要性や変更後の内容の相当性などに照らして合理的な変更であれば、個別の合意なしに変更できると定めています。後者の場合は、効力発生日までに周知していなければ変更の効力が生じません。料金の値上げや提供範囲の縮小のように利用者に不利な変更は、予告の期間を十分に取り、なぜ変えるのかを添えて知らせてください。
個人情報保護法では、利用目的を変更したときに、変更後の利用目的を本人に通知するか公表することが定められています(第21条第3項)。
どちらの文書も、ページ末尾に「制定日」「最終改定日」を書き、改定のたびに変えた条項と日付を手元に記録しておくと、「その時点でどういう規約だったか」を後から確かめられます。
2026年の個人情報保護法改正は、いま何か変える必要がある?
2026年7月17日に公布された改正法は、施行が原則として公布の日から2年を超えない範囲内とされ、政令やガイドラインが検討中です。施行日が決まるまでは現行の条文に沿って準備し、子ども向けのサービスを考えている人は動向を確認しておいてください。
個人情報保護委員会によると、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。委員会の説明資料では、16歳未満の本人について同意の取得や通知などの対象を法定代理人とすることの明文化、顔特徴データ等の取扱いに関する周知の義務化、課徴金制度の導入などが挙げられています。小中学生や高校生が使うことを想定したサービスでは、同意の取り方に影響する可能性があるため、施行に向けた委員会の公表を確認してください。
専門家に相談するのは、どの段階?
決済を始めるとき、健康や家計などの扱いに注意が要る情報を預かるとき、利用者同士の取引の場を作るときは、公開前に弁護士への相談を検討してください。
最初の公開は自分で作った文書で始め、次の段階で見直してもらう進め方もあります。
- 有料化・決済の導入:料金、返金、解約の扱いと特定商取引法の表記がそろっているか
- 扱いに注意が要る情報:健康・医療、金銭、子どもの情報など。業界ごとの規制がないかも含めて確認する
- 利用者同士の取引や投稿:利用者間のトラブルと運営者の責任の線引き
相談するときは、上で書き出したサービスの実態の一覧と、作成した規約・ポリシーを持っていくと、確認してほしい箇所を絞って依頼できます。
まとめ:公開前に残す3つの確認
- 利用者の個人情報を扱うなら、取得する情報・利用目的・第三者提供・運営者と問い合わせ先・開示などの請求の手続を、プライバシーポリシーとして公表する
- 利用規約は5つの基本条項を入れ、登録時の同意チェックとリンクで、契約内容にする手順を踏む。一方的に利用者を不利にする条項は入れない
- アクセス解析や広告のタグ、有料化、利用目的の変更のたびに、文書と実態が一致しているかを見直す
有料での提供を予定している場合は、あわせて有料サービスに必要な特定商取引法の表示、何を書けばいいかも公開前に確認してください。スマホアプリとして配信する場合はスマホアプリを配信する場合に確認すべきストア審査の基本も参考になります。




