予約ツールに「10回分の回数券」を付けたい。相談サービスで「先に3回分のチケットを買ってもらう」形にしたい。アプリの中で使えるコインを売りたい。前払いで売る仕組みを考え始めると、「前払式支払手段」や資金決済法という言葉に行き当たります。

電子マネーや商品券を発行する大きな会社の話に聞こえますが、資金決済法第5条は届出をする者として「法人」と並べて「個人」を挙げており、日本資金決済業協会の資料も自家型の届出を「個人でも法人でも可能」と説明しています。この記事では、資金決済に関する法律(資金決済法)と施行令・内閣府令の条文、関東財務局と日本資金決済業協会の公開資料をもとに、どんなポイントや回数券が対象になり、いつ届出が必要になるのかを、設計の段階で決められる形にまとめます。

先に要点をまとめます。

  • お金を受け取って発行し、金額や回数を記録して、あとで代金の支払いやサービスの請求に使うポイント・回数券・チケットは「前払式支払手段」に当たります。ただし、無料で配るポイントや、発行の日から6か月以内しか使えないものは対象外です
  • 自分のサービスだけで使えるもの(自家型)は、毎年3月31日・9月30日時点の未使用残高の合計が1,000万円を超えたときに、2か月以内の届出と、残高の2分の1以上の供託などが必要になります。それまでは届出は要りません
  • 他の店や他の事業者でも使えるもの(第三者型)は、発行前に財務局の登録を受けた法人しか発行できません。個人で始めるなら、使える範囲を自分のサービスに限る設計が前提になります

この記事の内容は、2026年10月9日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文と、財務局・協会の公開資料に基づいています。自分の仕組みが該当するかの最終的な判断は、管轄の財務局(財務事務所)に確認してください。

ポイントや回数券が「前払式支払手段」になるのはどんなとき?

資金決済法第3条の定義と日本資金決済業協会の資料では、①金額や数量が記録されている、②対価(お金)を受け取って発行する、③番号・記号やカードなどを発行する、④代金の支払いやサービスの請求に使える、の4つがそろったものが前払式支払手段です。

協会のパンフレット「前払式支払手段 知っておきたい法律のはなし」は、定義を次の4点に整理しています。

要件個人のサービスでの例
金額などが証票やサーバーに記載・記録されているアカウントにチャージ残高「3,000円分」や残り回数「7回」が記録される
対価が支払われている利用者がお金を払ってポイントや回数券を買う
証票等、または番号・記号などが発行されている紙の回数券、会員番号にひもづく残高、アプリのアカウント
代金の支払いのために使われる予約・相談・商品の購入のときに、残高や回数を減らして支払いに充てる

法律は、金額を記録するもの(第3条第1項第1号)と、「何回分」「何個分」のように数量を記録するもの(同第2号)の両方を対象にしています。紙のカードでなく、アカウント上の数字だけで管理する回数券やポイントも含まれます。

自分のサービスに当てはめると、次のように分かれます。

仕組み前払式支払手段か
お金を払ってチャージし、利用のたびに残高から引く当たる(6か月以内の期限なら対象外)
「10回分1万円」の回数券を売り、予約のたびに1回減らす当たる(同上)
お金を払って買うアプリ内コインで、有料機能やコンテンツを買う当たる(同上)
会員登録や来店のお礼に無料で配るポイント対価を受け取っていないので当たらない
購入額に応じて無料で付けるおまけのポイント同上(ただし景品の扱いなど、別の法律の論点はある)

最後の2行のように、ポイントという名前でも、お金を払って買ったものでなければ前払式支払手段の定義には入りません。有料で買うポイントと無料で付けるポイントを同じ残高に混ぜる設計にすると、どちらがいくら残っているかを後から分けられなくなります。最初から別の残高として記録しておくと、届出の判断に使う残高を正しく数えられます。

有効期限を6か月以内にすれば、資金決済法の対象外になる?

なります。資金決済法第4条第2号と施行令第4条第2項により、発行の日から6か月以内に限って使えるものは、届出などの規定が適用されません。ただし、期限が短いほど利用者が使い切れずに失う分が増えるため、期限は条件として分かりやすく表示します。

協会のパンフレットにある判定チャートも、「有効期限は発行の日から6カ月を超えていますか?」で「いいえ」なら適用対象外としています。乗車券・入場券・食堂の食券のようなものも、施行令第4条第1項で対象外とされています。

期限を6か月以内にする設計は、届出の負担がなくなる一方で、利用者から見ると「使い切れなかった分が消える」条件です。たとえば月1回のレッスンで10回の回数券を売ると、6か月では使い切れません。回数と期限の組み合わせが、実際の利用ペースで使い切れるものかを確かめてから決めてください。

追加でチャージできる残高(使った分を何度も足していける仕組み)の場合、6か月をどの時点から数えるかは、チャージごとの記録の持ち方によって変わります。この記事の確認範囲では一律に言えないため、期限で対象外にする設計をとるなら、仕組みを説明して財務局に確認してから決めてください。

有効期限や返金の条件は、有料サービスの表示として特定商取引法の表示や利用規約にも書く項目です。表示の決め方はサブスクの返金・解約条件の決め方で整理しています。

自分のサービスだけで使えるか、他の店でも使えるかで何が変わる?

自分(と親族など法令で定める密接な関係者)からの購入・サービスにだけ使えるものは「自家型」で、残高が基準を超えるまで届出は不要です。それ以外の「第三者型」は、発行前に財務局の登録を受けた法人だけが発行できます。

資金決済法第3条第4項は、発行する人から物品やサービスを受ける場合に限って使えるものを「自家型前払式支払手段」と定めています。施行令第3条では、発行者が個人の場合、その親族も「密接な関係を有する者」に含まれます。

一方、第3条第7項は、第三者型の発行者を「第7条の登録を受けた法人」と定めています。協会のパンフレットは、第三者型の登録要件として「原則、純資産額が1億円以上である法人」などを挙げています。個人で始めるサービスで、提携先の店でも使えるポイントや、複数の専門家に共通で使えるチケットを売る設計は、この時点で現実的ではありません。

自分のサービスのポイントや回数券に届出が必要かを判断するフロー図。お金を受け取って発行しているか、有効期限が発行から6か月を超えるか、自分のサービスだけで使えるかを順に確認し、自分だけで使えるものは3月31日と9月30日の未使用残高が1,000万円を超えたら2か月以内に財務局へ届出、他でも使えるものは事前に登録を受けた法人だけが発行できる、と分かれる

店舗向けのツールを他の店にも使ってもらう場合は、「誰が発行者か」を先に決めておきます。各店が自分の店の回数券を売り、その店でだけ使える仕組みなら、発行者はそれぞれの店で、自家型の判断も店ごとになると整理するのが自然です。反対に、ツールの運営者が1つのポイントを売り、加盟したどの店でも使える仕組みにすると、運営者が発行する第三者型に近づきます。この線引きは条文の定義から読み取れる考え方で、個別の判断は財務局で確認が必要です。複数の店で使えるツールの作り方はマルチテナント化の基本で扱っています。

届出が必要になるのは、残高がいくらを超えたとき?

毎年3月31日と9月30日(基準日)の時点で、まだ使われていない残高の合計が1,000万円を超えたときです。超えた基準日の翌日から2か月以内に、管轄の財務局へ届出を出し、あわせて残高の2分の1以上の発行保証金を供託するなどの対応が必要になります。

根拠となる条文は次のとおりです。

内容根拠
基準日は毎年3月31日・9月30日資金決済法第3条第2項
基準額は1,000万円施行令第6条
自家型の発行者は、基準日の未使用残高が最初に基準額を超えたときに届出資金決済法第5条第1項
届出は、超えた基準日の翌日から2か月を経過する日まで前払式支払手段に関する内閣府令第9条
未使用残高の2分の1以上の発行保証金を供託(保全契約・信託契約で代えることもできる)資金決済法第14条〜第16条
届出書を出さない、虚偽の記載をした場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金資金決済法第112条第1号

関東財務局のページは、複数の種類の回数券やポイントを発行している場合、種類ごとではなく、発行するすべての自家型の残高を合計して判断すると説明しています。数量で記録する回数券は、残り回数を金銭に換算した額で数えます(資金決済法第3条第2項第2号)。

計算例:1回5,000円のレッスンを「10回4万5,000円」の回数券で売っている場合です。以下は残高の数え方を示すための計算例で、実在のサービスの数字ではありません。自分の価格と販売数に置き換えて確認してください。基準日に、300人が平均7回分を残していれば、残り回数は2,100回です。これを金銭に換算した額が未使用残高になり、換算のしかた(1回5,000円で数えるか、4,500円で数えるか)によって1,050万円にも945万円にもなります。換算の方法は内閣府令で定められているため、基準額に近づいてきたら、自分の数え方で合っているかを財務局に確認してください。

この例のように、利用者が数百人規模でも、単価の高い回数券を売っていると基準額は視野に入ります。基準日に残高を集計できるよう、販売額・使用額・残り回数を日付つきで記録しておくことが、最初の設計で決めておきたい点です。

届出をした発行者には、どんな義務がかかる?

届出をした発行者には、利用者への情報提供、発行保証金の維持、払戻しの原則禁止、情報の安全管理、苦情への対応などの義務がかかります。

資金決済法と内閣府令から、個人の小さなサービスでも関わるものを挙げます。

  • 利用者への情報提供(法第13条、内閣府令第21条・第22条):発行者の名前、支払可能金額や回数、有効期限、苦情・相談の窓口、使える場所の範囲、利用上の注意、残高を確かめる方法などを示す。アカウント上で管理する場合は、画面などで閲覧できる形で提供する
  • 発行保証金(法第14条):基準日ごとに残高の2分の1以上を保つ。残高が1,000万円以下に下がれば、取り戻せる場合がある(法第18条)
  • 払戻しの原則禁止(法第20条第5項):業務をやめる場合などを除き、残高をお金で払い戻してはいけない。払戻額が基準期間の発行額の20%以下の場合などは例外として認められる(内閣府令第42条)
  • 業務をやめるとき(法第20条第1項・第2項、第33条):残高を払い戻す。その際は60日以上の申出期間を設けて公告し、利用者にも知らせる

払戻しの原則禁止は、届出をした発行者に対する規定です。届出前の段階で返金をどう扱うかは、利用規約と表示で自分が決めた条件に従います。ただ、届出後は「残高を返金する」運用が制限されるため、返金の条件は最初から、残高が増えた後も続けられる形で決めておくと、規約を作り直す手間が減ります。

開発を頼む前に、どこまで決めておけばいい?

前払いで売るものの種類、使える範囲、有効期限、残高の記録の持ち方の4つは、画面やデータの作りに直接響くため、見積もりを取る前に決めておきます。届出の判断と手続きは、発行する本人が行うものです。

次の6点を書き出したうえで開発会社に渡すと、残高の集計や期限切れの処理を、最初の見積もりに含めてもらえます。

  1. 前払いで売るものがあるか(チャージ残高、回数券、チケット、アプリ内コイン)
  2. 有料で買う分と、無料で付ける分を分けて記録するか
  3. 有効期限(6か月以内にするか、それより長くするか。チャージの追加がある場合の数え方)
  4. 使える範囲(自分のサービスだけか。他の店や他の専門家でも使えるようにする予定はあるか)
  5. 基準日の残高を出せるか(3月31日・9月30日時点の、使われていない金額と回数を集計できる記録の形)
  6. 返金の条件(届出後も続けられる条件か)

決済そのものは、カード情報を自分で持たない決済代行サービスを使うのが前提です。決済まわりの規制をどこまで専門家に任せるかは法律が関わる機能を専門家に頼む理由を参照してください。利用者どうしで残高を送り合える、残高を現金に換えられる、といった仕組みは、前払式支払手段とは別の規制(資金移動業など)の論点になり得ます。そうした機能を考えている場合は、設計を固める前に財務局や弁護士に相談してください。

まとめ:前払いで売る仕組みは、使える範囲と期限を先に決める

  • お金を受け取って発行し、金額や回数を記録して支払いに使うポイント・回数券・チケットは前払式支払手段に当たります。無料で配るポイントと、発行から6か月以内しか使えないものは対象外です
  • 自分のサービスだけで使える自家型は、3月31日・9月30日の未使用残高の合計が1,000万円を超えたら、2か月以内に財務局へ届出、残高の2分の1以上の供託などが必要です
  • 他の店でも使える第三者型は、事前に登録を受けた法人しか発行できません
  • 有料分と無料分を分けて記録し、基準日に残高を集計できる形にしておくと、届出が必要になったときに慌てずに済みます

いま考えている料金の形に、前払いで売るものが含まれているかを書き出してください。含まれていれば、使える範囲と有効期限を決め、残高の記録の持ち方を開発の要件に入れておきます。判断に迷う仕組みがあれば、料金表と使える範囲のメモを添えて、管轄の財務局(財務事務所)に問い合わせてください。