「住所を出したくない」で止まってしまう人は多い

有料サービスを公開する直前になって、特定商取引法(特商法)の表示画面で手が止まる。これは珍しいことではありません。個人事業主として自宅を拠点にしている場合、氏名や電話番号だけでなく自宅の住所までインターネット上に公開することになります。家族がいる、女性である、過去にトラブルの経験がある——理由は人それぞれですが、「ここまで開発を進めてきたのに、最後の最後で住所公開が引っかかって公開ボタンを押せない」という状態に陥る人を何人も見てきました。

大事なのは、この抵抗感が「甘え」でも「気にしすぎ」でもないということです。個人が実名・実住所をネットに晒すリスクは実在します。一方で、特商法の表示は決済を伴う有料サービスを提供するなら避けて通れない法的義務でもあります。この記事では、この二つをどう両立させるかという「判断そのもの」を扱います。表示の書き方や条文の詳細はコラムに譲り、ここでは「対処してでも進めるべきか」という一点に絞って考えます。

「住所を公開しない」という選択肢は基本的にない

まず前提を確認しておきます。特商法の表示義務そのものを回避する、つまり住所欄を空欄にしたり嘘の情報を書いたりする選択肢は、法令違反になるため取れません。ここで検討すべきは「住所を出すか出さないか」ではなく、「自宅住所をそのまま出すか、別の対処法を使うか」という選択です。

具体的にどんな項目を、どこまで書く必要があるかは 有料サービスに必要な特定商取引法の表示、何を書けばいいか で詳しく整理しています。まずは義務の全体像を押さえた上で、住所欄だけをどう扱うかを次に考える、という順番が迷いにくいです。

対処法は存在する

自宅住所をそのまま公開する以外にも、実務上よく使われる対処法がいくつかあります。

  • バーチャルオフィスの利用:月数千円程度で、事業用の住所として使える住所貸しサービス。特商法表示に使える住所として案内している事業者もあります。
  • 開示請求への対応に切り替える:一定の条件を満たせば、住所・電話番号を常時公開せず、「請求があれば遅滞なく開示する」という運用に変更できる場合があります。
  • レンタルオフィス・シェアオフィスの契約住所を使う:実際に作業拠点として利用している場所があれば、そこを届出住所にする方法もあります。

どの方法にも、費用・手続きの手間・利用条件といった向き不向きがあります。どの対処法が自分のケースに合うか、実際の手続きの流れまで含めた具体的な選び方は 個人事業主が特商法表示で住所を公開したくない場合の対処法 で扱っていますので、この記事では「対処法自体は複数存在する」という事実だけ押さえておいてください。

それでも「対処してでも進める」べき理由

ここが本記事の核心です。住所公開への抵抗感を理由に公開そのものを先延ばしにするのは、多くの場合おすすめできません。理由は三つあります。

特定商取引法の住所公開に抵抗があるとき、対処法を使って予定通り公開すべきか、条件を確認してから判断すべきかを分ける判断フロー図。

第一に、対処法のコストは決済導入コストの一部として最初から織り込めるからです。 バーチャルオフィスの月額費用は、サービス全体の運用費から見れば小さな金額です。予算配分を考える段階でこの費用をあらかじめ計上しておけば、「住所問題で公開が止まる」という事態自体を避けられます。

第二に、住所公開の不安は「公開してから消える」ことが多いからです。 実際に公開してみると、想定していたような不特定多数からの接触は起きず、むしろ何も起きないまま数ヶ月が過ぎるケースがほとんどです。不安は「未知」に対して大きくなりがちで、対処法を使って公開したあとに振り返ると、事前に感じていたほどのリスクではなかったと語る人が多いのも事実です。

第三に、この段階で止まると、それより先の工程すべてが止まるからです。 特商法の表示は、決済機能を組み込んだサービスを一般公開するための最終ゲートに近い位置にあります。ここで足踏みを続けると、公開直後の最初のユーザー獲得や告知のタイミングを逃すことにもつながります。公開後にまず何をすべきかは 公開直後、最初のユーザーをどこから集めるか で扱っていますが、そもそも公開できなければこの先には進めません。

判断の目安

「対処してでも進めるべきか」を自分で判断するための簡単な目安を挙げておきます。

状況判断の方向性
対処法(バーチャルオフィス等)の費用を払える余地がある対処法を使って予定通り公開する
開示請求対応の条件(一定の事業規模・実績等)を満たせそうか未確認まず条件を確認してから判断する
住所公開以外にも公開を迷う要素が複数ある住所は対処法で解決し、他の懸念と切り分けて考える
すでに開発・検証を終え、公開直前まで来ている先延ばしにするコストの方が大きいと考える

住所公開への抵抗は、多くの場合「対処法を知らない」ことから生じる漠然とした不安です。対処法の存在を知り、費用を見積もった上でなお公開をためらうのであれば、それは慎重な経営判断です。しかし「知らないから漠然と怖い」という状態のまま足を止めているなら、対処法を確認するところから始めてみてください。具体的な選び方や手続きの詳細は、先に紹介したコラムで補ってください。