個人でサービスを立ち上げるとき、多くの人が最初につまずくのが「ユーザーの情報をどう扱えばいいのか分からない」という壁です。会員登録フォームを作ればメールアドレスが集まりますし、決済機能をつければ氏名や住所も扱うことになります。企業の情報システム部門のような専任担当者がいない個人開発・複業の現場では、「なんとなく大丈夫だろう」で進めてしまい、後になって不安を感じるケースが少なくありません。
この記事では、個人や小規模チームでサービスを立ち上げる方に向けて、個人情報を扱ううえで最低限おさえておきたいルールを整理します。法律の専門的な解釈に踏み込むというより、「何を、いつ、どこまでやればよいか」という実務的な最低ラインを示すことを目的にしています。なお、個人情報保護法をはじめとする関連法令は改正が行われることがあり、この記事の内容は2026年時点の一般的な情報として書いています。実際の対応にあたっては、最新の情報を確認し、必要に応じて弁護士や専門家に相談することをおすすめします。
この記事で分かること
- 個人開発・複業サービスであっても、氏名やメールアドレスなどを集めた時点で「個人情報を取り扱う事業者」としての義務が発生し得ること
- 最低限やるべきことは「利用目的の明示」「安全管理」「必要最小限の収集」「問い合わせ窓口の設置」の4点に整理できること
- 「小規模だから関係ない」「無料サービスだから対象外」といった思い込みは危険で、規模や課金の有無にかかわらず基本的なルールは適用されると考えておくのが安全であること
「個人情報を扱う」とはどこからを指すのか
まず前提として、「個人情報」とは何を指すのかを確認しておきます。一般的には、氏名・生年月日・住所・電話番号・メールアドレスなど、特定の個人を識別できる情報が個人情報にあたるとされています。単体では個人を特定できない情報でも、他の情報と組み合わせることで特定の個人が分かる場合は、個人情報として扱われることがあります。
個人でサービスを立ち上げる場合、次のような場面で個人情報を取得することになります。
- 会員登録フォーム(氏名・メールアドレス・電話番号など)
- お問い合わせフォーム
- 決済機能(氏名・住所・カード情報の一部など。カード番号自体は決済代行会社が保持することが一般的です)
- アクセス解析ツール(IPアドレスやCookie情報。単体では個人情報に該当しない場合もありますが、他の情報と紐づく場合は注意が必要とされています)
- SNS連携ログイン(プロフィール情報の一部を取得することがあります)
「会員登録機能をつけた時点で、個人情報を取り扱う事業者になる」という前提で準備を進めておくと、後から慌てずに済みます。特に、MVP(実用最小限の製品)の段階でメールアドレスだけを集めるような小さな機能であっても、この前提は変わりません。
「うちは小さいから関係ない」は危険な思い込み
かつては個人情報保護法の対象が「取り扱う個人情報が5,000件を超える事業者」に限定されていた時期がありましたが、この規模要件は撤廃されており、現在は取り扱う件数の多寡にかかわらず、個人情報を扱う事業者は法律の対象になり得ると理解しておくのが一般的です。つまり、ユーザーが数十人しかいない個人開発サービスであっても、原則として同じルールの対象になり得るということです。
「趣味で作ったアプリだから」「まだ収益化していないから」という理由で対応を先送りにしてしまう方もいますが、個人情報を集めている以上、規模や収益の有無は免責の理由にはならないと考えておくことをおすすめします。
最低限守るべき4つのルール
個人開発・複業のサービスにおいて、最低限おさえておきたいポイントを4つに整理します。専門的な体制を一から作るのは難しくても、この4点は多くのケースで対応可能です。
1. 利用目的を明示する
個人情報を取得する際は、「何のためにその情報を使うのか」をあらかじめ利用者に伝えることが基本とされています。たとえば会員登録フォームで氏名とメールアドレスを取得するなら、「アカウント管理およびお知らせの配信のために利用します」といった形で目的を明示します。
よくある失敗パターンとして、フォームには入力欄だけを用意し、利用目的の説明を一切書かないというケースがあります。これは後から「勝手に何に使われるか分からない情報を集められた」という不信感につながり、サービスの信頼性を損なう原因にもなります。プライバシーポリシー(プライバシーポリシー)を用意し、そこに利用目的をまとめて記載したうえで、フォームの近くにリンクを設置するのが一般的な対応です。
利用目的は、できるだけ具体的に書くことが望ましいとされています。「サービスの向上のため」といった抽象的な表現だけでなく、「新機能のお知らせをメールで送るため」「本人確認のため」など、利用者がイメージできる書き方を心がけることをおすすめします。
2. 安全管理措置を講じる
集めた個人情報を適切に管理する体制を整えることも重要です。専門用語では「安全管理措置」と呼ばれますが、個人開発の現場で言い換えると、次のような対応が該当します。
- パスワードは平文で保存せず、ハッシュ化して保存する(多くの認証基盤サービスでは標準対応されています)
- 管理画面へのアクセスに認証をかけ、誰でも閲覧できる状態にしない
- クラウドホスティングやデータベースの管理者アカウントを、推測されにくいパスワードと多要素認証で保護する
- 開発中のテスト環境に、本番の実データをそのまま複製して置かない
- 個人情報を含むログをむやみに出力・保存しない、あるいは保存期間を決めて削除する
- 退職者・離脱した協力者のアクセス権限を放置しない
個人開発の場合、ノーコードツールやクラウドサービスを組み合わせて構築することも多いですが、その際は利用するサービス側のセキュリティ設定(アクセス権限の公開範囲など)を必ず確認することをおすすめします。「デフォルト設定のまま公開範囲が『全体に公開』になっていて、誰でも顧客データを閲覧できる状態だった」という事故は、個人開発に限らず実際によく起こるパターンです。
3. 必要最小限の情報だけを集める
「あとで使うかもしれないから」という理由で、生年月日・性別・住所など、サービスの提供に直接必要のない情報まで幅広く集めてしまうケースが見られます。しかし、情報は集めれば集めるほど管理の負担とリスクが増えます。
最低限の原則として、「そのサービスを提供するために本当に必要な情報は何か」を先に定義し、それ以外は集めない設計にすることをおすすめします。たとえば、メールマガジンの配信だけが目的であれば、メールアドレス以外の項目は不要かもしれません。決済が必要なサービスであっても、カード番号そのものを自社サーバーで保持せず、決済代行会社の決済フォームに処理を委ねる構成にすれば、扱う個人情報の範囲を絞り込むことができます。
このアプローチは、MVP(実用最小限の製品)開発の考え方とも相性が良い部分です。機能を絞り込むのと同じように、集める情報も最初から絞り込んでおくことで、後々の管理負担やセキュリティリスクを小さく保てます。
4. 問い合わせ・開示請求の窓口を用意する
利用者から「自分の情報がどう使われているか教えてほしい」「登録した情報を削除してほしい」といった問い合わせが来た場合に対応できる窓口を用意しておくことも、最低限のルールのひとつです。
個人開発の場合、専用の問い合わせフォームを1つ用意し、プライバシーポリシーにその連絡先を明記しておくだけでも対応になります。重要なのは、「問い合わせが来たときにきちんと反応できる状態」を作っておくことです。連絡先を書いているのに実際にはメールを見ていない、返信が来ないという状態は望ましくありません。
個人情報の「保管場所」を洗い出す
最低限のルールを実践するための最初の一歩として、自分のサービスが「どこに」「どんな個人情報を」保存しているかを一度棚卸ししてみることをおすすめします。個人開発の場合、意外と保存場所が分散していて、本人も全体像を把握していないことが少なくありません。
具体的には、次のような場所に個人情報が散らばっていないか確認してみてください。
- アプリ本体のデータベース(会員情報、注文履歴など)
- 決済代行サービスの管理画面(氏名・請求先住所など)
- メール配信サービスの登録リスト
- チャットサポートツールのやり取り履歴
- スプレッドシートで手動管理している顧客リスト
- 開発時に使ったテストデータのエクスポートファイル(ローカルPCやクラウドストレージに残っていることがあります)
- SNSの公式アカウントに届いたダイレクトメッセージ
これらを一覧化してみると、「実はこんなところにも個人情報が残っていた」と気づくことがよくあります。棚卸しの結果は、プライバシーポリシーに記載する「取得する情報」「利用する外部サービス」の項目とも直結するため、公開前だけでなく、新しい外部サービスを追加するたびに見直す習慣をつけておくと安心です。
棚卸しをするタイミングとしては、次のような節目がおすすめです。
- サービスを最初に公開する前
- 新しい外部サービス(決済・分析・チャットツールなど)を追加したとき
- 会員登録の項目を増やしたり変更したりしたとき
- 一定期間(半年〜1年に一度など)ごとの定期チェック
特に、ピボットによってサービスの内容や収集する情報の種類が変わったタイミングでは、プライバシーポリシーの見直しを忘れがちです。ピボット前の古いプライバシーポリシーがそのまま残っていると、実態と乖離した記載になってしまうため注意が必要です。
外部サービス・SaaSを使う場合の確認ポイント
個人開発では、自前でサーバーを構築するのではなく、外部のSaaSやAPIを組み合わせてサービスを作ることが一般的です。認証基盤、決済、メール配信、チャット、AI機能など、便利な外部サービスを使うほど開発は速くなりますが、その分だけ個人情報の受け渡し先が増えることにもなります。
外部サービスを選ぶ際、最低限確認しておきたいポイントを挙げます。
- そのサービスが個人情報の取り扱いについてどのような方針を公表しているか(プライバシーポリシーや利用規約を確認する)
- データの保存場所(サーバーがどの国・地域にあるか)が明記されているか
- サービス側での障害・情報漏えい発生時に、利用者へどのような通知が行われる仕組みになっているか
- 無料プランと有料プランで、データの取り扱いに差があるかどうか
- サービスを解約した場合、預けていたデータがどうなるか(削除されるか、一定期間保持されるか)
特に、LLM(大規模言語モデル)を活用した機能をサービスに組み込む場合は注意が必要です。利用者からの入力内容をAPI経由で外部のAIサービスに送信する構成では、その入力内容に個人情報が含まれる可能性があります。送信先のAI事業者が入力データをどのように扱うか(学習に利用されるのか、一定期間で削除されるのか)を確認し、必要であればプライバシーポリシーにAI機能の利用について明記しておくことをおすすめします。なお、サービス運営の現場で自分自身が生成AIツールを使う場合も同様の注意が必要で、生成AIに個人情報を学習させない設定を事前に確認し、顧客情報や機密情報を入力してしまわないよう設定を整えておくと安心です。
また、複数の外部サービスを連携させる際は、「Aというサービスで集めた情報を、Bというサービスに渡して処理する」という流れが生まれます。この受け渡しの経路が増えるほど、どこかの一箇所でセキュリティ上の不備があった場合の影響範囲も広がります。本当に必要な連携だけに絞り、不要になった連携は解除しておくという意識も、個人情報を守るうえでの基本的な考え方のひとつです。
複業・副業で立ち上げる場合に気をつけたいこと
会社員として働きながら複業でサービスを立ち上げる場合、個人情報の取り扱いに関して独特の注意点がいくつかあります。
まず、勤務先の情報資産(業務で使っているメールアドレス、勤務先から支給されたパソコンやクラウドアカウントなど)を複業のサービス運営に流用しないことが重要です。複業サービスの会員情報を、勤務先が契約しているクラウドストレージや業務用メールに保存してしまうと、勤務先の情報管理ポリシーに抵触する可能性がありますし、万が一トラブルが起きた際に勤務先を巻き込んでしまうことにもなりかねません。複業を始める段階で、個人名義のクラウドアカウントや専用のメールアドレスを分けて用意しておくことをおすすめします。
また、複業は本業の合間の限られた時間で運営することになるため、個人情報の管理体制がどうしても手薄になりがちです。「本業が忙しくて、問い合わせメールを1週間放置してしまった」ということが起きないよう、通知の仕組みを整えておく、あるいは対応可能な範囲まで受付人数を絞るといった工夫も検討に値します。サービスが小さいうちから丁寧に運用しておくことで、後から利用者が増えた際にも慌てずに対応できる体制を作りやすくなります。
複業でチームを組んで開発する場合は、業務委託先や協力者に対しても、個人情報の取り扱いに関する最低限のルールを共有しておくことをおすすめします。「悪意はなくても、うっかり顧客データが入ったファイルを個人のチャットで共有してしまった」という事故は、複数人が関わるプロジェクトほど起こりやすくなります。契約書や覚書に守秘義務の条項を入れておくことも、対策のひとつです。
よくある失敗パターン
個人開発・複業でサービスを立ち上げる方が陥りやすい失敗パターンを、具体的に紹介します。
プライバシーポリシー自体の書き方は個人開発サービスのプライバシーポリシー、何をどこまで書くかで詳しく扱っていますが、ここでは実際によく見られる失敗パターンを紹介します。
パターン1: プライバシーポリシーがテンプレートのコピーのまま
ネット上のテンプレートをそのままコピーして貼り付け、自社サービスの実態と合っていないプライバシーポリシーを公開してしまうケースです。たとえば、実際には行っていない第三者提供について記載されていたり、逆に実際に行っている外部サービス(アクセス解析ツールや広告配信ツールなど)への言及が抜けていたりすることがあります。プライバシーポリシーは「実際にそのサービスが何をしているか」を正確に反映している必要があるため、テンプレートを使う場合でも、自分のサービスの実態に合わせて内容を見直すことをおすすめします。
パターン2: 外部サービスに個人情報を渡している自覚がない
決済代行サービス、メール配信サービス、チャットツール、アクセス解析ツールなど、個人開発では多くの外部サービス(SaaS)を組み合わせて構築するのが一般的です。このとき、利用者の個人情報がこれらの外部サービスにも渡っていることを見落としがちです。「第三者提供」に該当するかどうかは状況によって整理が異なるため一概には言えませんが、少なくとも「どの外部サービスにどの情報が渡っているか」を自分で把握し、プライバシーポリシーに主要な連携先を記載しておくことをおすすめします。
パターン3: 退会後もデータを残し続けている
利用者が退会したにもかかわらず、個人情報をそのまま保持し続けているケースです。利用目的に照らして不要になった個人情報は、遅滞なく削除する努力をすることが望ましいとされています。退会機能を作る際は、あわせて「退会時にどのデータを削除するか」「一定期間保持する場合はその理由と期間」を設計時に決めておくことをおすすめします。
パターン4: 個人情報の管理を1人のスキルに依存している
複業やチームでの開発の場合、特定の1人だけが管理画面のパスワードやデータベースへのアクセス権を持ち、他のメンバーがまったく把握していない状態になることがあります。その人が離脱したり連絡が取れなくなったりすると、誰も安全管理の実態を把握できなくなるリスクがあります。小さなチームであっても、アクセス権限や管理体制を最低限ドキュメント化しておくことをおすすめします。
公開前チェックリスト
サービスを公開する前に、以下の項目を確認しておくと安心です。
- [ ] プライバシーポリシーを作成し、サービス内からリンクを辿れる場所に設置したか
- [ ] プライバシーポリシーの内容が、実際に集めている情報・使っている外部サービスと一致しているか
- [ ] 会員登録フォームなど、個人情報を入力する箇所の近くに利用目的の説明があるか
- [ ] パスワードなど機密情報が平文でデータベースに保存されていないか
- [ ] 管理画面や開発環境に、第三者が推測しやすいパスワードを使っていないか
- [ ] 本番データをテスト環境にそのまま複製していないか
- [ ] 集めている個人情報の項目が、サービス提供に本当に必要な範囲に絞られているか
- [ ] 問い合わせ・開示請求を受け付ける窓口(メールアドレスやフォーム)を用意しているか
- [ ] 退会時にデータをどう扱うか(削除するか、一定期間保持するか)を決めているか
- [ ] クレジットカード情報など特に機密性の高い情報を、自社で直接保持せず決済代行会社に委ねる構成にしているか
- [ ] Cookieやアクセス解析ツールを使う場合、その旨をプライバシーポリシーに記載しているか
Q&A形式で確認する疑問点
Q. 無料サービスやベータ版でも、ここまでやる必要がありますか。
A. 一般的には、無料か有料か、正式版かベータ版かにかかわらず、個人情報を取得している時点で基本的なルールの対象になると考えておくのが安全です。特に会員登録機能があるサービスは、ベータ版・ベータリリースの段階からプライバシーポリシーを用意しておくことをおすすめします。後から追加するよりも、最初から組み込んでおくほうが手間がかかりません。
Q. 海外のユーザーも使うサービスの場合、日本の法律だけ守れば十分ですか。
A. サービスの利用者に海外在住者が含まれる場合、その国・地域の法令(たとえばEUのGDPRなど)が適用される可能性があります。海外展開を視野に入れている場合は、この記事で扱う日本の基本的な考え方だけでなく、対象地域の規制についても専門家に確認することをおすすめします。国際的な個人情報保護のルールは国によって求められる水準が異なるため、一律には言えない部分です。
Q. 友人・知人向けの小さなツールでも、同じように対応すべきですか。
A. 利用者が限定された身内向けのツールであっても、氏名やメールアドレスなどを保存する以上、基本的な安全管理の考え方は当てはめておくことをおすすめします。ただし、公開範囲や利用規模に応じて、どこまで厳密な体制を組むかは現実的なバランスで判断してよい部分でもあります。不安がある場合は、この記事のチェックリストを目安に、最低限のラインは満たしておくとよいでしょう。
Q. プライバシーポリシーは自分で書いても大丈夫ですか、専門家に依頼すべきですか。
A. 基本的な構成であれば自分で作成し、テンプレートを参考にしながら自社の実態に合わせて調整することも可能です。ただし、扱う情報の種類が多い場合や、決済・医療・金融など特にセンシティブな領域を扱う場合は、弁護士など専門家によるレビューを受けることをおすすめします。専門家に依頼する費用を惜しんで不備のあるまま公開するより、最初の段階で一度確認してもらうほうが、結果的に安心してサービスを育てられます。
専門知識を活かしたツールの場合の注意点
士業や医療職など、専門的な資格を活かしたツール・サービスを立ち上げる場合、一般的な個人情報に加えて、より機微な情報を扱う場面が出てきます。たとえば、健康状態に関する情報、既往歴、相談内容の詳細、資産状況などは、一般的な個人情報よりも慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」に該当する可能性があります。
要配慮個人情報にあたる情報は、取得する際にあらかじめ本人の同意を得ることが原則として求められるなど、通常の個人情報よりも厳格なルールが適用されると理解しておくことをおすすめします。士業・医療職としての本業ですでに個人情報の取り扱いに慣れている方でも、「本業では紙のカルテや院内システムで完結していた情報を、Webサービスとしてクラウド上で扱う」という変化によって、新たに検討すべき点が生じることがあります。
具体的には、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
- 利用者の相談内容や診断に類する情報を記録・保存する場合、その保存先(クラウドホスティング事業者)のセキュリティ水準は十分か
- 本業の業界団体・監督官庁が定めるガイドライン(守秘義務に関する規定など)と、Webサービスとしての運用が整合しているか
- ツールの利用規約・プライバシーポリシーにおいて、専門家としてのアドバイスの位置づけ(医療行為や法律相談そのものではない、といった免責の考え方)を明確にしているか
- 相談内容などのやり取りを第三者のチャットツールやAIサービス経由で処理する場合、その情報がどこに送信され、どう扱われるかを把握しているか
専門職の方がスピンオフでツールを作る場合、本業の専門知識があるからこそ「自分は分かっている」と思い込みやすい側面もあります。しかし、対面の実務とオンラインサービスでは、情報の保存方法や第三者への伝達経路が大きく異なります。念のため、本業の所属団体や顧問弁護士に、Webサービス化にあたっての注意点を確認しておくことを強くおすすめします。
店舗DXの現場で気をつけたいポイント
店舗経営者が予約システムや会員証アプリなどを導入する場合も、個人情報の扱いは無縁ではありません。来店客の氏名・電話番号・来店履歴・購買履歴などは個人情報にあたり、これらを紙の台帳からデジタルツールに移行する際に、新たな管理体制が必要になります。
店舗DXでよくあるのは、複数のツール(予約システム、POSレジ、公式LINEアカウント、会計ソフトなど)を組み合わせて使うことで、顧客情報がいくつものサービスに分散して保存される状態です。この場合、「どのツールにどの情報があるか」を店主自身が把握しきれなくなることがあります。導入するツールを増やす際は、そのたびに「このツールにはどの個人情報を渡すことになるか」を確認する習慣をつけることをおすすめします。
また、アルバイトやパートスタッフが顧客情報にアクセスできる状態にある場合、スタッフ全員が同じ意識を持てているとは限りません。閲覧できる情報の範囲をスタッフの役割に応じて制限したり、簡単な注意事項を共有したりするだけでも、情報漏えいのリスクを下げることができます。
情報漏えいが起きた場合の心構え
どれだけ気をつけていても、情報漏えいのリスクをゼロにすることはできません。個人開発・複業のサービスであっても、「起きないようにする」対策と同時に、「万が一起きてしまったときにどう動くか」をあらかじめ考えておくことをおすすめします。詳しい対応手順は個人開発でも用意しておきたい、情報漏えい時の対応方針に譲りますが、ここでは最低限おさえておきたい心構えを紹介します。
まず、漏えいに気づいた際に慌てて隠したり、対応を先延ばしにしたりしないことが重要です。個人情報の漏えいが発生した場合、一般的には監督官庁への報告や本人への通知が必要になる場合があるとされています。どのようなケースで報告や通知が必要になるかは状況によって異なるため、日頃から「もし起きたらどこに相談すればよいか」を把握しておくと、いざというときに落ち着いて動くことができます。
また、個人開発であっても、次のような備えをしておくと安心です。
- サービスに関わる重要なパスワード・APIキーを、他のサービスと使い回さない
- 万が一のアカウント乗っ取りに備えて、多要素認証を有効にしておく
- 定期的にデータのバックアップを取り、復旧の手順を確認しておく
- 相談できる専門家(弁護士、セキュリティに詳しい知人など)を事前に探しておく
- 利用者への連絡手段(メールアドレスなど)を事前に整理し、緊急時にすぐ一斉連絡できるようにしておく
「個人開発だから何かあっても大目に見てもらえるだろう」という考え方は避けたほうが安全です。利用者からすれば、運営者が個人か企業かにかかわらず、自分の情報を預けているという事実は変わりません。小さなサービスであっても、誠実に向き合う姿勢を持っておくことが、長期的な信頼につながります。
法改正・ガイドライン改定への向き合い方
個人情報保護に関する法律やガイドラインは、社会状況や技術の変化に応じて見直されることがあります。過去にも、対象事業者の規模要件の見直しや、要配慮個人情報の定義の追加など、実務に影響する改正が行われてきました。
個人開発者・複業者が最新の法改正をすべて追いかけ続けるのは現実的に難しい面がありますが、次のような形で情報をアップデートする習慣を持っておくことをおすすめします。開発期の完了条件を満たさないまま公開したくなる場面での考え方は、開発期の完了条件を満たしていないのに公開したくなったときの対処でも扱っています。
- 個人情報保護委員会など監督官庁が公表している一般向けのガイドラインに、年に一度程度は目を通す
- 使っている外部サービス(決済代行、クラウドホスティングなど)から、規約変更やセキュリティに関するお知らせが届いたら必ず目を通す
- サービスが成長し、会員数や取り扱う情報の種類が増えたタイミングで、プライバシーポリシーや運用体制を専門家に見直してもらう
- 業界特有の規制がある場合(医療・金融・士業など)は、その分野の動向を継続的に確認する
法律への対応は、一度整えたら終わりというものではなく、サービスの成長や社会の変化に合わせて見直し続けるものだと捉えておくと、過度に身構えすぎず、かといって放置しすぎることもない、ちょうどよい距離感で向き合えるはずです。
まとめ
個人や小規模チームでサービスを立ち上げる際、個人情報の取り扱いは「難しそうだから後回し」にされがちなテーマです。しかし、会員登録やお問い合わせフォームなど、多くのサービスは早い段階で何らかの個人情報を取得することになります。最低限、次の4点を意識しておくことをおすすめします。
- 利用目的をあらかじめ明示する
- 集めた情報を安全に管理する体制を整える
- サービス提供に必要な範囲だけの情報を集める
- 問い合わせ・開示請求に対応できる窓口を用意する
これらは特別な専門知識がなくても、意識して設計に組み込めば十分に対応できる内容です。一方で、扱う情報が機微なものであったり、事業の規模が大きくなったりする局面では、この記事で紹介した内容だけでは足りない場合もあります。個人情報保護に関する法律・ガイドラインは改正が行われることもあるため、この記事の内容を出発点としつつ、公開前や事業拡大のタイミングで専門家に確認することをおすすめします。




