看護師、税理士、栄養士など、専門職の経験を活かしたツールを作る場合、専門的な業務ロジックの部分は自分で担いたいと考える人も多くいます。しかし、その一部機能を内製と外注、どちらに任せるべきかは、機能ごとに判断が分かれます。この記事では、専門知識ツールの一部機能について、内製と外注どちらが向いているかを解説します。
この記事で分かること
専門知識ツールは、専門的な業務ロジックの部分と、それを動かす技術的な基盤の部分に分けて考えることができます。この記事では、それぞれの部分を、内製と外注のどちらに任せるべきかを整理します。
結論を先に示すと、押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 業務ロジックの「整理」は自分で、「実装」は状況に応じて判断する
- 単純な条件分岐は内製、複雑な条件分岐は外注を検討する
- データの管理・セキュリティが重要な部分は、外注を優先的に検討する
専門職の方がツール作りに挑戦しようとすると、「全部自分で作らなければ意味がない」あるいは「専門的な話なのだから最初から全部プロに頼むべきだ」という、どちらか一方に極端に振れた考え方をしてしまいがちです。しかし実際には、ツールを構成する機能を細かく分けて見ていくと、内製に向いている部分と外注に向いている部分が混在しているケースがほとんどです。この記事を通じて、その「見分け方」を具体的に持てるようになることを目指します。
なぜ専門職のツール作りで「内製か外注か」に迷いやすいのか
看護師や税理士、栄養士といった専門職の方が自分の業務経験を活かしたツールを作ろうとするとき、多くの人が最初にぶつかる壁が「これは自分で作れるのか、それとも専門の開発会社に頼むべきなのか」という判断です。
この判断が難しい理由は、専門知識ツールが持つ特有の性質にあります。一般的な業務ツール(例えば単純なタスク管理ツールやメモアプリ)であれば、機能のほとんどがノーコードツールの標準的な機能で実現できることが多く、判断に迷う場面は少なくなります。しかし専門知識ツールの場合、次の3つの要素が複雑に絡み合っています。
- 専門分野特有の判断ロジック(例:症状の組み合わせによるアドバイスの切り分け、税制上の条件分岐による計算方法の違い、栄養素の相互作用を踏まえた食事提案など)
- その分野でしか使われない専門用語や単位の扱い
- 個人情報や機密性の高い情報を扱う場面が多いこと
これらが一般的な業務ツールよりも複雑に組み合わさっているため、「全部自分でできそう」と思って始めたのに途中で行き詰まったり、逆に「難しそうだから全部外注しよう」と考えて、本来は自分でもできたはずの部分まで高い費用をかけて外注してしまったりする、というミスマッチが起こりやすいのです。
なお、内製と外注という二択の間には、専属の担当者を置かずに外部の専門チームへ継続的に相談できる体制を持つという第三の道もある。中小企業がAI推進の担当者を置けない場合の選択肢については、外部AI部署という選択肢でも詳しく整理されている。
この記事で紹介する判断基準を使うことで、機能ごとに「ここは自分でできる」「ここは専門家に任せたほうがよい」という線引きを、感覚ではなく具体的な基準に基づいて行えるようになります。
業務ロジックの「整理」は自分で、「実装」は状況に応じて判断する
専門分野の業務ロジック(どういう場面で、どう判断するかというルール)を整理する作業は、その分野の専門知識を持つ自分自身が、最も正確に行える作業です。この「整理」の工程は、内製・外注どちらを選ぶ場合でも、自分が担うべき重要な作業です。
一方、整理した業務ロジックを、実際にシステムとして「実装」する部分は、その複雑さによって、内製で対応できるか、外注が必要かが変わってきます。
「整理」と「実装」を分けて考える意味
ここで大切なのは、「業務ロジックを考えること」と「それをシステムに組み込むこと」は、まったく別の作業だという認識を持つことです。専門職の方の中には、この2つを一体のものと捉えてしまい、「自分にはシステムを作る技術がないから、業務ロジックを考えることも含めて全部外注しよう」と考えてしまう方が少なくありません。
しかし、業務ロジックの整理を最初から開発会社に任せてしまうと、次のような問題が起きやすくなります。
- 開発会社の担当者は、その専門分野の細かなニュアンスまでは理解できないため、要件のヒアリングに何度も時間がかかる
- 専門職側が「なんとなくこういう判断をしている」という感覚を、言葉にして伝えるのに苦労する
- 結果として、実際の現場感覚とズレたロジックが実装されてしまい、後から手直しが発生する
これを避けるためには、まず自分自身で「どういう入力があったときに、どういう出力(判断・アドバイス・計算結果)を返すか」を、できるだけ具体的な言葉や表、フローチャートの形に整理しておくことが有効です。この整理作業自体は、プログラミングの知識がなくても、紙とペン、あるいは表計算ソフトがあれば十分に進められます。
整理の具体的な進め方
業務ロジックを整理する際には、次のような手順で進めることをおすすめします。
- 典型的なパターンを5〜10個、具体的な事例として書き出す(実際に対応した相談内容や事例をベースにすると、抜け漏れが少なくなります)
- それぞれの事例で「何を確認し、どう判断したか」を分解する
- 共通するパターンと、例外的なパターンを分けて整理する
- 例外パターンが多い場合は、その例外をどこまでシステムに組み込むかを検討する(すべての例外を組み込もうとすると、実装の複雑さが一気に増えるため、優先度をつけることが重要です)
この整理ができていれば、内製で進める場合はそのままノーコードツールの設定に落とし込みやすくなりますし、外注する場合も、開発会社に渡す要件として非常に質の高い資料になります。実際、開発会社側から見ても、業務ロジックが整理された状態で相談を受けられると、見積もりの精度が上がり、開発期間も短縮できることが多いです。
単純な条件分岐は内製、複雑な条件分岐は外注を検討する
「この条件のときは、この表示にする」という、単純な条件分岐であれば、多くのノーコードツールで対応できる可能性があります。この場合、内製での対応を検討してみることをおすすめします。
一方、複数の条件が組み合わさり、条件によって異なる計算やロジックが必要になる、複雑な条件分岐の場合、ノーコードツールでは対応が難しくなることがあります。この場合、その部分だけを外注し、実装してもらうという選択肢を検討することをおすすめします。ノーコードだけで、どこまでの機能が実現できるかについては、別記事で詳しく解説しています。
「単純」と「複雑」を見分ける具体的な目安
「単純な条件分岐」と「複雑な条件分岐」の境界線は、専門職の方にとって直感的に分かりづらい部分だと思います。ここでは、より具体的な目安を紹介します。
内製で対応しやすい「単純な条件分岐」の特徴
- 条件の数が少ない(おおよそ2〜3個程度の質問や入力項目で判断が完結する)
- 条件同士に相互作用がない(それぞれの条件が独立して判定できる。Aという条件とBという条件が組み合わさることで、判定結果が変わるようなことがない)
- 計算式がシンプルで、四則演算や単純な比較(以上・以下・一致など)で表現できる
- 判定結果のパターンが数種類(3〜5パターン程度)に収まる
例えば、「利用者の年齢が65歳以上かどうかで、表示するメニューを切り替える」といった条件分岐は、単純な条件分岐に該当し、多くのノーコードツールの標準機能で対応可能です。
外注を検討したほうがよい「複雑な条件分岐」の特徴
- 条件の数が多く、それぞれの条件が相互に影響し合う(複数の要因を組み合わせて総合的に判断する必要がある)
- 専門分野特有の計算式やアルゴリズムが必要になる(例えば、複数の指標を係数付きで加減算し、しきい値によって複数段階の判定を出すような計算)
- 例外処理やエッジケース(通常とは異なる特殊な状況)への対応が多い
- 判定結果のパターンが多岐にわたり、場合分けの数が二桁を超えるようなケース
こうした複雑な条件分岐を、ノーコードツールの標準機能だけで無理に実現しようとすると、設定が複雑に絡み合ってしまい、後から「どこにどの条件を設定したか分からなくなる」という状態に陥りがちです。この状態になると、修正のたびに動作確認の手間が増え、かえって運用の負担が大きくなってしまいます。
迷ったときの簡易チェックリスト
自分が対応しようとしている条件分岐が、内製向きか外注向きかを判断する際に使える、簡易的なチェックリストを紹介します。次の項目のうち、当てはまる数が多いほど、外注を検討する価値が高いといえます。
- [ ] 条件を書き出すと、10行を超える表になる
- [ ] 「この条件とこの条件が同時に成立したら」という掛け合わせの条件が3つ以上ある
- [ ] 専門分野特有の計算式(係数、重み付け、しきい値の複数段階判定など)が含まれる
- [ ] 例外パターン(通常のルールが当てはまらない特殊な事例)が全体の2割以上を占める
- [ ] ノーコードツールの設定画面を見ても、どこに何を設定すればよいか見当がつかない
- [ ] 一度作った設定を自分で見返しても、数週間後に意味が分からなくなりそうだと感じる
このチェックリストで3つ以上当てはまる場合は、その機能については外注を検討したほうが、結果的に時間とコストの両面で無駄が少なくなる可能性が高いです。
よくある失敗パターン:「動くけど誰も理解できない」設定
ノーコードツールを使って複雑な条件分岐を無理に内製で実装しようとした結果、よく見られる失敗パターンがあります。それは、「動いてはいるが、設定した本人以外は誰も理解できない、複雑に絡み合った設定」ができあがってしまうことです。
このパターンに陥ると、次のような問題が発生します。
- 新しい条件を追加しようとすると、既存の設定のどこかに影響が出てしまい、思わぬ不具合が発生する
- 数ヶ月後、自分自身でも設定の意図を忘れてしまい、修正に着手できなくなる
- 誰かに引き継ぎたい場面(例えば、外注に切り替えたいと考えたとき)で、開発会社に説明するのが困難になる
この失敗を避けるためには、「複雑になりそうだと感じた時点で、一度立ち止まって、外注を検討する」という判断のタイミングを、あらかじめ自分の中に持っておくことが大切です。実装を始めてから複雑さに気づくのではなく、業務ロジックを整理している段階で「これは複雑になりそうだ」と見極めることができれば、無駄な実装作業を避けられます。
データの管理・セキュリティが重要な部分は、外注を優先的に検討する
専門分野によっては、取り扱うデータに、個人情報や、機密性の高い情報が含まれることがあります。こうしたデータの管理やセキュリティが重要な部分については、ノーコードツールでの対応に限界がある場合、外注によって、専門家に適切なセキュリティ対策を実装してもらうことを、優先的に検討することをおすすめします。
なぜセキュリティが重要な部分は特別扱いすべきなのか
業務ロジックの複雑さとは別の軸で、「セキュリティの重要性」も、内製と外注を判断するうえで欠かせない基準です。この基準を特別に扱う理由は、業務ロジックの不具合とセキュリティの不具合とでは、問題が発覚したときの深刻さがまったく異なるためです。
業務ロジックに不具合があった場合、多くは「誤った表示や誤った計算結果が出る」というかたちで問題が現れます。これは利用者にとって不便であり、専門職としての信頼を損なう可能性もありますが、比較的早い段階で気づき、修正することができます。
一方、セキュリティに不具合があった場合、次のような特徴があります。
- 問題が発覚するまでに時間がかかることが多く、気づかないうちに情報が漏れ続けてしまう可能性がある
- 一度情報が外部に漏れてしまうと、後から取り消すことができない
- 専門職としての信頼だけでなく、法的な責任を問われる可能性もある(特に医療・介護・税務など、法令で情報の取り扱いが定められている分野では、この点が一層重要になります)
このように、セキュリティに関する不具合は「発覚が遅れやすく、かつ取り消しがきかない」という特徴を持つため、業務ロジックの複雑さの基準とは別に、独立した判断基準として重視する必要があります。
専門職が扱いやすい「機密性の高い情報」の具体例
自分が作ろうとしているツールで、どのようなデータが機密性の高い情報に該当するのか、具体的なイメージを持てるように、専門職別に例を挙げます。
- 看護師・医療系専門職:既往歴、服薬情報、バイタルデータ、診断に関わる相談内容など
- 税理士・会計系専門職:収入・資産情報、取引先情報、マイナンバーに関連する情報など
- 栄養士:健康状態、疾患の有無、身体データ(体重・身長・血液検査値など)
- カウンセラー・心理系専門職:相談内容そのもの、精神的な健康状態に関する情報
これらの情報を扱うツールを作る場合、次のような機能については、内製でのノーコード対応に限界がある場面が多く見られます。
- ユーザーごとにアクセス権限を細かく分ける機能(例えば、本人だけが自分のデータを見られるようにし、他の利用者からは見えないようにする権限管理)
- データを暗号化して保存する機能
- 通信経路の暗号化(データが送受信される際の保護)を、業界の基準に合わせて適切に設定する機能
- データの保存期間や削除ルールを、法令や業界のガイドラインに沿って正確に実装する機能
こうした機能を、ノーコードツールの標準設定だけで、業界の基準を満たす水準まで作り込むことは難しい場合が多く、専門知識を持つ開発会社に相談することで、適切な実装方法や設定を提案してもらえる可能性が高くなります。
ノーコードツールのセキュリティ機能を過信しない
近年のノーコードツールは、以前と比べてセキュリティ機能が充実してきています。基本的なアクセス制限やパスワード保護など、標準機能として用意されているものも増えました。ただし、ここで注意したいのは、「ノーコードツールにセキュリティ機能がある」ことと、「自分の専門分野で求められる水準を満たしている」ことは、必ずしも同じではないという点です。
例えば、次のような観点は、ノーコードツールの標準機能だけでは判断が難しいことがあります。
- 自分の業界で守るべき法令やガイドライン(個人情報保護法、各業界の指針など)が具体的に何を求めているか
- ノーコードツールの提供事業者が、データをどこに、どのように保管しているか
- 想定外のアクセスや不正利用があった場合に、どのように検知し、対応する仕組みになっているか
これらの観点について、自分だけで正確に判断するのは難しいことが多いため、少なくとも一度は、専門知識を持つ開発会社やセキュリティの専門家に相談し、「この使い方であれば問題ないか」を確認しておくことをおすすめします。この確認だけでも外注し、実際の実装は内製で続けるという選択肢も現実的です。
セキュリティの水準や案件の複雑さに応じて、依頼する外注先を適切に選ぶことも重要になる。開発会社の提案内容を比較する際の視点は、発注先を比較する判断軸にまとめられているので、外注を検討する段階になったら参考にしてほしい。
機能ごとに、内製と外注を組み合わせる実践的な考え方
すべての機能を一律に、内製か外注かで判断するのではなく、機能ごとに、この記事で紹介した基準(複雑さ、セキュリティの重要性など)を当てはめて、個別に判断することをおすすめします。
例えば、「顧客情報の登録・一覧表示」は、比較的シンプルな機能であれば内製で対応し、「専門的な計算ロジックを含む診断機能」は、複雑さとリスクの大きさから、外注で対応する、という組み合わせが考えられます。
機能を分類する簡易マトリクス
自分が作りたいツールに含まれる機能を、次の2つの軸で分類してみると、内製と外注の組み合わせを考えやすくなります。
- 横軸:業務ロジックの複雑さ(単純 ← → 複雑)
- 縦軸:データの機密性(低い ← → 高い)
この2軸で機能を分類すると、次のような4つの領域に分けることができます。
- 複雑さが低く、機密性も低い機能(例:お知らせの一覧表示、簡単な問い合わせフォームなど)→ 内製での対応が最も適している領域
- 複雑さが高いが、機密性は低い機能(例:複雑な条件分岐を含むが、個人情報を扱わない診断ロジックなど)→ 業務ロジックの実装のみ外注を検討する領域
- 複雑さは低いが、機密性が高い機能(例:単純な入力フォームだが、個人情報を保存する機能)→ セキュリティ面のみ外注や専門家への確認を検討する領域
- 複雑さが高く、機密性も高い機能(例:個人情報を用いた複雑な診断・計算ロジック)→ 全面的に外注を検討すべき領域
自分が作りたい機能を一つひとつ、この4つの領域に当てはめていくことで、「どの機能は自分で作り、どの機能は専門家に任せるべきか」という全体像が見えやすくなります。
実践例:栄養士が作る「食事アドバイスツール」の場合
具体的なイメージを持ちやすくするために、架空の例として、栄養士の方が「利用者の食事内容を記録し、アドバイスを返すツール」を作る場面を考えてみます。
- 食事内容の記録・カレンダー表示機能:入力された食事内容を日付ごとに記録し、一覧やカレンダー形式で表示する機能です。業務ロジックは単純で、機密性も比較的抑えられる設計にできるため、内製での対応が向いています。
- 基本的な栄養バランスの表示機能:記録された食事内容から、大まかな栄養バランス(主食・主菜・副菜のバランスなど)を単純な集計で表示する機能です。条件分岐がシンプルであれば、内製で対応できる可能性が高いです。
- 疾患を踏まえた詳細な食事アドバイス機能:利用者の既往歴や身体データを踏まえ、複数の条件を組み合わせて、専門的な食事アドバイスを生成する機能です。業務ロジックが複雑であり、既往歴という機密性の高い情報を扱うため、先述の4領域のうち「複雑さが高く、機密性も高い」領域に該当し、外注を優先的に検討すべき部分です。
このように機能を分解してみると、ツール全体を一度に「内製か外注か」で判断するのではなく、部分ごとに適切な選択をしていくことの重要性が見えてきます。
内製から始めて、必要な部分だけ後から外注する
最初はすべてを内製で試し、実際に使ってみて、「この部分は、やはり専門家に任せたほうがよい」と感じた機能だけを、後から外注に切り替えるという進め方も、現実的な選択肢です。この進め方であれば、最初から外注を前提にするよりも、初期の費用を抑えられます。
段階的な進め方が向いているケース
この「内製から始めて、後から外注に切り替える」進め方は、特に次のような状況に当てはまる場合に向いています。
- ツールのアイデアがまだ検証段階で、実際に利用者に使ってもらえるかどうかが分からない
- 予算に限りがあり、最初から大きな外注費用をかけるリスクを取りたくない
- 業務ロジック自体が、まだ自分の中でも固まりきっていない(実際に運用しながら、ルールを調整していきたい)
逆に、最初の段階で機密性の高い情報を扱うことが確定している場合や、業務ロジックの複雑さがすでに明らかな場合は、無理に内製から始めるのではなく、最初からその部分だけ外注を前提に設計したほうが、結果的に手戻りが少なくなることもあります。
内製から外注へ切り替えるタイミングの見極め方
段階的に進める場合、「いつ外注に切り替えるか」の判断も重要になります。次のようなタイミングは、切り替えを検討する目安になります。
- ノーコードツールの設定変更のたびに、意図しない不具合が発生するようになった
- 利用者数が増え、扱うデータの機密性や量が、当初想定していたレベルを超えてきた
- 業務ロジックの追加・修正が頻発し、その都度の設定変更に時間がかかりすぎている
- 自分では対応できない技術的な要望(他のサービスとの連携など)が出てきた
これらのサインが出てきた段階で、「この機能について外注を検討する」という判断を下すことで、内製の限界を無理に超えて頑張り続けることによる時間の浪費を避けられます。
段階的な進め方の注意点
ただし、この進め方には一つ注意点があります。内製で作った部分をあとから外注に切り替える際、内製時のデータや設定をそのまま引き継げるとは限らないという点です。特に、ノーコードツールで蓄積したデータを、外注先が新たに構築するシステムに移行する作業が必要になる場合、想定以上の手間や費用がかかることがあります。
この注意点を踏まえると、内製を始める段階から、「将来的にこの部分は外注に切り替える可能性がある」と見込んでいる機能については、データの形式をできるだけシンプルに保っておく、あるいは定期的にデータを書き出せる状態にしておくといった工夫をしておくと、後々の移行がスムーズになります。
外注する場合、専門知識の伝達が重要になる
専門的な業務ロジックの一部を外注する場合、その専門知識を、開発会社に正確に伝えることが、実装の質を左右します。専門分野の業務知識を、開発会社に正確に伝える工夫については、別記事で詳しく解説しています。
専門知識の伝達で起きやすいすれ違い
専門職の方が開発会社に業務ロジックを説明する際、次のようなすれ違いが起きやすいことが知られています。
- 専門用語をそのまま使って説明してしまい、開発会社側が正確に理解できない
- 「当然そうするものだ」という暗黙の前提が、専門職の中では自然なことでも、開発会社側には伝わっていない
- 例外的なケースについて、専門職側は当然のように想定しているが、開発会社への説明では省略してしまう
こうしたすれ違いを防ぐためにも、前述した「業務ロジックの整理」の工程を、自分自身の中でしっかりと行っておくことが、外注を成功させるための土台になります。整理された資料があれば、開発会社側も専門用語の意味を確認しながら、正確に要件を理解しやすくなります。
Q&A:内製と外注の判断でよくある疑問
ここまでの内容を踏まえて、専門職の方からよく聞かれる質問について、Q&A形式で補足します。
Q. 内製と外注、どちらか一方だけに決めたほうがシンプルではないですか?
A. シンプルさだけを優先すると、どちらか一方に決めたくなる気持ちはよく分かります。しかし、専門知識ツールは、機能ごとに複雑さやリスクの度合いが大きく異なることが多いため、一律に決めてしまうと、「単純な機能にまで高い外注費用をかけてしまう」あるいは「複雑でリスクの高い機能まで無理に内製で対応してしまう」という、どちらかの無駄が発生しやすくなります。多少の判断の手間はかかりますが、機能ごとに分けて考えることをおすすめします。
Q. 自分の専門分野の業務ロジックが複雑かどうか、自分では判断がつきません。どうすればよいですか?
A. この記事で紹介したチェックリストを使って、まずは自分なりに整理を試みることをおすすめします。それでも判断がつかない場合は、業務ロジックを整理した資料を持って、開発会社に一度相談してみるとよいでしょう。多くの開発会社は、初回の相談だけであれば無料で対応してくれることが多く、その場で「この部分は内製でも対応できそうです」「この部分は外注をおすすめします」といった、実務的な目線でのアドバイスをもらえる場合があります。
Q. 内製で一度作った後、外注に切り替えるのは「失敗」ということになりますか?
A. そのようには考えなくてよいと思います。むしろ、最初にすべてを外注する場合と比べて、内製で試行しながら業務ロジックを実際に検証できたことは、大きな価値があります。内製期間で得られた「実際にどう使われるか」「どこで不具合が起きやすいか」という知見は、外注する際の要件としてそのまま活用でき、結果的に外注の精度を高めることにつながります。
Q. セキュリティが重要な機能を外注する場合、どのくらいの費用を想定しておけばよいですか?
A. 具体的な費用は、扱うデータの種類や量、必要なセキュリティの水準によって大きく変わるため、一概には言えません。ただし、セキュリティに関わる部分は、実装後に問題が発覚した場合の被害の大きさを考えると、費用を抑えることを最優先にするのではなく、必要な水準を満たすことを優先して検討することをおすすめします。複数の開発会社から見積もりを取り、対応内容や実績を比較検討するとよいでしょう。
Q. 一部の機能だけを外注すると、内製部分と外注部分の「つなぎ目」でうまく連携しないのではないかと心配です。どう考えればよいですか?
A. これは非常に重要な観点です。内製部分(ノーコードツールで作った画面やデータ)と、外注部分(開発会社が実装した機能)を組み合わせる場合、両者がどのようにデータをやり取りするかを、事前に整理しておく必要があります。具体的には、「どのデータを、どのタイミングで、どちらのシステムから、どちらのシステムに渡すのか」を、簡単な図やメモにしておくと、開発会社との打ち合わせもスムーズになります。多くの場合、開発会社側は、ノーコードツールと連携するための方法(外部のシステムとデータをやり取りする仕組みなど)について知見を持っているため、「この部分は外注したいが、内製部分ともうまく連携させたい」という要望自体は、事前に整理して伝えれば十分に対応してもらえることが多いです。連携の仕組みが複雑になりそうな場合は、最初の相談時点で、内製部分の仕様(使っているノーコードツールの種類や、外部連携機能の有無など)も合わせて共有しておくと、より精度の高い提案を受けられます。
Q. 外注する機能の範囲を、後からもっと広げたり、逆に狭めたりすることはできますか?
A. 可能です。実際に運用を始めてみると、「思っていたよりも自分で対応できる部分が多かった」あるいは「想定していなかった複雑さが見つかり、追加で外注したい部分が出てきた」という状況は、よく起こります。契約の段階で、範囲を柔軟に見直せるかどうかを、開発会社にあらかじめ確認しておくと、こうした状況の変化にも対応しやすくなります。最初から完璧な切り分けを目指す必要はなく、運用しながら調整していく前提で計画を立てることをおすすめします。
この記事の次に読みたい記事
専門知識ツールにおける内製と外注の判断基準を理解したら、次は非エンジニアが自分で作れる範囲の見積もり方についても、あわせて確認しておきましょう。




