「両方やる」が一番遅い

サービスを立ち上げようと動き出すと、頭の中には案が1つだけということはあまりありません。「これも面白そうだ」「あっちの方が現実的かもしれない」と、気づけば2つ、3つと候補が並んでいる状態になります。

ここでやってしまいがちなのが、両方を並行して少しずつ検証することです。平日の夜と週末しか使えない時間を2つのアイデアに分けると、どちらも中途半端な検証で止まり、結局どちらの手応えも確かめられないまま数ヶ月が過ぎます。自己資金300万円という限られた元手で動くなら、時間もまた元手の一部です。同時に2つを追うのではなく、先に1つを選び、そのアイデアの検証を終わらせてから次に進むほうが、結果的に早く前に進みます。

大事なのは「どちらが優れているか」を決めることではありません。優劣は検証してみないと分かりません。ここで決めるべきは「どちらを先に検証するか」という順番だけです。

判断軸1:需要を確認しやすいのはどちらか

まず見るべきは、そのアイデアが「本当に欲しい人がいるか」を確かめやすいかどうかです。同じ検証の手間でも、需要の見えやすさはアイデアによって大きく違います。

  • 検索で悩みのキーワードが一定数出てくるか
  • 同じ悩みを抱えた人が、SNSやレビューで具体的に不満を書いているか
  • 「その悩みを持つ人」に自分が直接会える距離にいるか

このあたりを、それぞれのアイデアについて軽く調べてみてください。フェイクドアテストという検証手法や、キーワードの検索需要を無料ツールだけで確認する方法など、需要確認そのものの具体的なやり方は キーワードの検索需要を、無料ツールだけで確認する方法 で詳しく扱っています。ここでの目的は精密な調査ではなく、「どちらが早く手応えを得られそうか」を比べる材料集めです。

需要の輪郭がぼんやりしたまま先に進めても、後工程でつまずくだけです。早く・安く「欲しい人がいる」と分かるほうを先に検証したほうが、時間を無駄にしません。

判断軸2:自分の専門性・経験に近いのはどちらか

次に見るのは、自分の強みとの距離です。同じ「良さそうなアイデア」でも、自分の専門知識や業務経験が生きるものと、ゼロから勉強しなければならないものとでは、検証の速度も精度もまったく違います。

専門職スピンオフ型であれば、日々の業務で扱っている悩みに近いアイデアのほうが、ユーザーの反応を正しく読み取れます。店舗・地域事業者DX型であれば、自分の店で実際に困っていた業務に近いアイデアのほうが、検証の初速が出ます。逆に、専門外の領域は「面白そうだから」という理由だけで選ぶと、良し悪しの判断基準を自分の中に持てず、検証の結果を読み違えやすくなります。

自分の専門知識・業務経験を棚卸しする視点は 自分の専門知識・業務経験を「サービスの種」として見直す方法 で扱っています。複数のアイデアがあるなら、それぞれについて「これは自分の経験のどの部分から来ているか」を一度書き出してみると、距離の違いがはっきりします。

判断軸3:検証コストが低いのはどちらか

最後に見るのは、検証にかかる時間とお金です。ここでいう検証は「実際に作る」ことではありません。ランディングページを1枚作って反応を見る、知人に説明して反応を確かめる、といった軽い検証です。作る前に「本当に欲しいか」を確かめるランディングページ検証の仕方は 作る前に「本当に欲しいか」を確かめる、ランディングページ検証の仕方 にまとめてありますが、この段階でのポイントは「軽く検証できるか」を比較材料にすることです。

複数のアイデアからどちらを先に検証すべきかを判断する3つの軸のフローと、決めきれない場合の暫定ルールを示す図。

同じ検証でも、アイデアによっては次のような違いが出ます。

観点検証コストが低い傾向検証コストが高い傾向
説明のしやすさ一文で言える説明に前提知識が必要
反応の集めやすさ知人・同業者にすぐ聞ける対象者に接点がない
検証手段LP・アンケートで足りる試作品がないと反応が測れない

検証コストが低いアイデアから着手すれば、限られた時間と予算を使い切る前に「進めるか、やめるか」の判断材料が手に入ります。逆に検証コストが高いアイデアを先に選ぶと、判断材料が出そろう前に時間切れになりかねません。

それでも決められないときの暫定ルール

3つの軸を並べても、なお甲乙つけがたいことはあります。そのときのために、暫定ルールを1つ持っておいてください。

「1週間以内に、需要の有無について何らかの答えが出せそうな方」を先に選ぶ

これだけです。完璧な判断基準を探すよりも、期限を切って動き出すほうが、結果的に多くのことが分かります。1週間で答えが出なければ、それもまた重要な情報です。検証がしにくいアイデアだった、ということが分かったことになります。

なお、これは「もう一方のアイデアを捨てる」という意味ではありません。3行メモの型で記録に残しておけば、今回選ばなかったアイデアは、今のアイデアが行き詰まったとき、あるいは今のアイデアが軌道に乗って余力ができたときに、いつでも戻ってこられます。アイデアが浮かんだら最初に書く、3行メモの型アイデアが浮かんだら最初に書く、3行メモの型 で紹介していますので、比較検討の記録用に使ってみてください。

まとめ

複数のアイデアを同時に検証しようとすると、どちらも中途半端になります。優劣ではなく順番を決める、という発想に切り替え、需要の確認しやすさ・自分の専門性との近さ・検証コストの低さの3つで比較してください。それでも決めきれないときは、1週間で答えが出せそうな方から着手する、という暫定ルールで十分です。選ばなかったアイデアは消えるわけではなく、後で戻ってくるための選択肢として残ります。