押印した瞬間、何かが終わったわけではありません

開発会社との契約書に押印した日は、達成感でいっぱいになる日です。何ヶ月もかけて検討し、複数社と打ち合わせを重ね、ようやく「この会社に任せよう」と決めた区切りだからです。

ただ、ここで気を抜くと危険です。契約は「プロジェクトが始まる合図」であって、「あとは相手に任せておけばいい合図」ではありません。押印したその日にやるべきことと、少し余裕を持って翌週に回してよいことを分けて把握しておくと、キックオフ以降の立ち上がりが大きく変わります。

この記事では、契約直後の数日間で発注者側がやるべき手続きを、時系列で整理します。

その日にやるべきこと

キックオフの日程調整をその場で動かす

契約締結の場に開発会社の担当者がいるなら、その場でキックオフミーティングの候補日を2〜3個出してもらいましょう。メールでのやり取りに任せると、双方の予定調整だけで1週間以上溶けることがあります。押印した勢いを保ったまま、次の予定を確保するのがその日の最優先事項です。

キックオフが早く決まるほど、開発会社側もリソースの割り当てを早く確定できます。逆にここが曖昧なまま数日空くと、「別の案件が先に動き出してしまい着手が遅れる」という事態も起こり得ます。

初期情報の共有チャネルを開通させる

キックオフまでに開発会社側が準備を進められるよう、その日のうちに以下を共有しておくと立ち上がりが速くなります。

  • 連絡用のチャットツール(Slack・Chatworkなど)への招待
  • 参考にしてほしい競合サービスやイメージに近いサイトのURL
  • これまでの打ち合わせで固まっている要件メモや優先順位

打ち合わせの初期段階で「まだ固まっていないアイデアを、開発会社にどう伝えるか」に悩んだ方も多いと思いますが、その悩みの延長として、契約後も情報は小出しにせず、手元にあるものはこの時点で一括して渡してしまうのがコツです。後から少しずつ追加すると、開発会社側も情報の抜け漏れを追いかけるコストがかかります。

専門知識がある場合は伝達方法を決めておく

士業や専門職の方、店舗経営者の方など、業界特有の知識やルールをサービスに反映させる必要がある場合は、その伝え方をこの日のうちに一言合意しておきましょう。「用語集を作って渡す」「業務フローを図にして送る」など、方法自体は翌週以降で構いませんが、「どちらが用意するか」「いつまでに渡すか」だけは契約日のうちに決めておくと、翌週の作業がスムーズです。

翌週でよいこと

一方で、以下は契約当日に無理に片付けなくても大丈夫です。焦って雑に済ませるより、落ち着いて用意したほうが結果的に質が上がります。

契約押印当日にやるべきことと翌週以降でよいことを左右で対比した図。

利用規約・プライバシーポリシーなどの法務書類

公開時に必要になる利用規約やプライバシーポリシー、特定商取引法の表示といった法務書類は、開発が完了する前までに用意できていれば問題ありません。契約直後の段階では、まだ画面設計も固まっていないことが多く、規約の内容を先に確定させても手戻りが発生しやすいためです。

翌週以降、キックオフで開発のスケジュール感がつかめてから、逆算して準備を進めれば十分間に合います。

決済・外部APIまわりの選定

決済サービスや地図API、メール配信サービスなど、外部連携が必要な機能がある場合、その選定も契約当日に急ぐ必要はありません。開発会社側の設計担当と相談しながら、要件に合ったものを翌週以降にじっくり選んだほうが、後々の手戻りを防げます。

社内・関係者への正式な告知

専門職や店舗経営者の方であれば、既存顧客や取引先への告知文面を考えたくなるかもしれませんが、これも急ぐ必要はありません。サービスの仕様がまだ固まっていない段階での告知は、後で内容が変わったときに訂正の手間が発生します。告知は開発がある程度進んでから、落ち着いて準備しましょう。

迷ったときの判断軸

「これは今日やるべきか、翌週でいいか」を迷ったときは、次の問いで振り分けると判断しやすくなります。

問いYesなら
これを渡さないとキックオフの準備が止まるかその日のうちに
内容が今後の設計次第で変わる可能性があるか翌週以降でよい
相手の予定を押さえる必要があるかその日のうちに

契約直後に必要な手続きの詳細、たとえば契約書自体で確認しておくべき条項については「契約書で必ず確認したい条項(知的財産権・検収・保守)」で個別に扱っています。また、キックオフの打ち合わせで何を聞くべきかは「開発会社との初回打ち合わせで、必ず聞くべきこと」に譲ります。

法務書類の具体的な準備内容については「公開前に用意する利用規約・プライバシーポリシーの最低ライン」で詳しく解説していますので、翌週以降落ち着いたタイミングで参照してください。

契約は始まりの合図です。その日にやるべきことを確実に済ませつつ、焦らなくていいことまで背負い込まないバランス感覚が、プロジェクトの最初の1週間を穏やかに進める鍵になります。