身内の「いいね」は、まだ需要の証拠ではない

アイデアが固まってきた頃、多くの人が最初にやるのは「知人に話してみる」ことです。会社員時代の同僚、SNSでつながっている友人、家族。反応は大抵、好意的です。「いいね、それ欲しい」「面白そう」「自分も使いたい」。

その言葉に背中を押されて、開発会社への相談や本格的な試作に進む人は少なくありません。ですが、ここで一度立ち止まる価値があります。知人からの好意的な反応は、需要の証明としては驚くほど弱いというのが、これまで多くの個人開発者が通ってきた道でわかっていることです。

理由は単純です。知人は「あなたを応援したい」という気持ちで反応しています。サービスそのものへの評価と、あなたへの好意が混ざった状態で出てくる言葉なので、本当にお金を払ってでも使いたいのか、社交辞令なのかを、発言だけから見分けるのはほぼ不可能です。しかも知人は無料で意見をくれる分、「本当に使うか」を試される場面(決済画面の前に立つ、実際にアプリを開く)まで進まないことがほとんどです。反応の熱量と、実際の利用意欲は、別のものだと考えておくのが安全です。

信頼できる反応と、そうでない反応の見分け方

同じ「いいね」でも、中身には差があります。次の観点で振り返ってみると、その反応がどれくらい信頼できるかが見えてきます。

知人からの反応を信頼度別に4タイプに分類した図。一般論型・感想型(信頼度低い)から具体シーン型・行動先取り型(信頼度高い)まで並べる。

お金を払う意思が言葉に出ているか

「いいね」「面白い」だけで終わる反応と、「これなら月1,000円払ってもいい」「今困っているから今すぐ使いたい」まで踏み込む反応は、まったく別物です。後者は、頭の中で自分の財布と天秤にかけた結果出てきた言葉です。前者は感想の域を出ていません。

会話の中で「実際いくらなら払う?」と一歩踏み込んで聞いてみると、この違いがはっきり見えてきます。答えに詰まる、あるいは「うーん、無料ならね」と返ってくるようなら、それは需要ではなく感想だったと考えたほうがいいでしょう。

具体的な利用シーンを語れているか

「いつ」「どんな場面で」「何に困っていて」使うのかを、相手自身の言葉で具体的に語れるかどうかも重要な分かれ目です。

反応のタイプ特徴信頼度
一般論型「便利そう」「あったら使うかも」低い
感想型「いいね、それ」「面白い発想」低い
具体シーン型「毎週月曜の在庫確認が地獄だから、これがあれば助かる」中〜高
行動先取り型「今すぐ使わせてほしい」「順番待ちでいいから登録したい」高い

具体シーン型・行動先取り型の反応が出てくるのは、相手が本当にその悩みを抱えている場合がほとんどです。逆に一般論型・感想型しか出てこないなら、身近な人への挨拶程度の会話だったと捉えるほうが実態に近いはずです。

専門職・店舗経営者の場合は、既存の顧客・取引先の反応を優先する

士業や医療職など専門知識をツール化しようとしている方、店舗の業務改善ツールを他店にも広げたいと考えている方は、友人よりも既存の顧客や同業者の反応のほうがずっと参考になります。すでにお金を払っている関係の相手が示す反応は、社交辞令の混入が少ないからです。「今の顧問料に含めてでもこれが欲しい」といった言葉が出てくれば、それは友人の「いいね」とは重みが違います。

「いいね」の次に何をすべきか

好意的な反応をもらったら、そこで満足せず、もう一段階踏み込んだ検証に進むのが次のステップです。具体的には、次のような手法があります。

  • 表面的な感想ではなく、悩みの深さや頻度を掘り下げて聞く
  • 実際にお金を払うかどうかを、フェイクドアテスト(実在しない申込ボタンを置いて反応を見る検証)のような形で確かめる
  • 検索データなど、感情の入らない客観的な指標と突き合わせる

知人との会話は、あくまで「仮説の芽が正しそうか」を確かめる最初の一歩にすぎません。そこから先、悩みの解像度を上げていくには、知人に「いいね」と言われて満足しない。ユーザーインタビューの始め方 で扱っているような、踏み込んだ聞き方が必要になります。感想をもらう会話と、需要を検証するインタビューは、似ているようでいて技術が違います。

さらに、言葉ではなく行動で確かめたい場合は、本当に「買いたい」人がいるか。フェイクドアテストという検証手法 が次の一手になります。「欲しい」と言った人が、実際に申込ボタンを押すところまで行動するかどうかを見れば、社交辞令かどうかは自然とふるいにかけられます。

知人の輪を超えて、もっと広い母集団で需要の手触りを確かめたい場合は、作る前に「本当に欲しいか」を確かめる、ランディングページ検証の仕方 で紹介しているランディングページを使った検証も選択肢に入ってきます。友人10人の反応より、見知らぬ100人のクリック率のほうが、市場全体の縮図に近いことは珍しくありません。

まとめ

知人からの「いいね」は、アイデアを前に進めるきっかけとしては十分価値があります。ですが、それをそのまま「需要があった」という結論にしてしまうのは早計です。お金を払う意思がにじんでいるか、具体的な利用シーンを語れているかを見極めた上で、次の検証手法に橋渡しをしていく。それが、身内の応援と、市場の需要を混同しないための、いちばん確実な進み方です。

各手法の具体的なやり方は、それぞれのコラムに譲ります。ここで大事なのは、「いいね」をもらった時点ではまだ検証の途中だと認識しておくことです。