「動く」と「良い」は別の問題です

AIと一緒に試作を進めていると、ある日ふと「動いた」瞬間が来ます。入力したデータが処理され、画面が期待通りに切り替わり、エラーも出ない。ここまで来ると、誰でも一区切りついた気持ちになります。

ですが、この「動く」は「良い」とは別の問題です。試作が動くというのは、あなたが試した手順・データ・環境において、たまたま望んだ結果が返ってきたという事実でしかありません。他の人が触ったらどうか、想定外のデータが入ったらどうか、明日もう一度動かしたらどうか。そこはまだ何も確認できていません。

この段階でつまずく人の多くは、「動いた」を「完成した」と読み違えます。そして、そのままの土台で機能を積み増していき、後になって土台のほころびに気づく、という順番をたどります。逆に、慎重になりすぎて何度も作り直しを繰り返し、いつまでも次に進めない人もいます。どちらも、判断の軸を持たずに感覚だけで進めてしまった結果です。

この記事では、試作が一応動いた時点で「そのまま次に進んでよい状態」と「作り直しを検討すべき状態」を分ける、実務的な判断軸を整理します。

次に進んでよい状態の基準

まず、次のステップ(機能追加、他の人に見せる、本番品質への引き上げ)に進んでよいと言える状態を、3つの基準で確認します。

試作が一応動いたとき次に進んでよいかを判断する3つの基準を示す図。再現性・理解できていない箇所の言語化・直しながら進められる規模。

1. 一番大事な1つの流れが、再現性を持って動くか

サービスの核となる操作(たとえば「入力して結果が返ってくる」「予約して確認メールが届く」)を、あなた以外の人が、あなたが用意した手順書なしに、3回試して3回とも成功するか。1回目はたまたま動いた、2回目はエラーが出た、というのであれば、それは「動いている」とは言えません。

2. 自分がどこを理解していないか、言葉にできるか

AIと一緒に作った試作の場合、「なぜこのコードでこの動きになるのか」を自分の言葉で説明できない部分が必ずどこかにあります。それ自体は悪いことではありません。ただ、「どの部分が分かっていないか」をリストアップできる状態であれば、次に進んでも致命的な事故にはなりにくいです。逆に「どこが分かっていないかも分からない」状態は、次に進む前に立ち止まる合図です。

3. 直しながら進められる規模か

試作の中身を1つ変えたときに、影響範囲が予測できるかどうかも重要な基準です。「この設定を変えたら、なぜか関係ない画面まで崩れた」という経験があるなら、それは構造がまだ荒く、今の規模のうちに整理したほうが後が楽になるサインです。逆に、変更の影響が予測できる範囲に収まっているなら、多少粗くても前に進みながら直していけます。

この3つがおおむね満たせているなら、「動く」から「次のステップ」へ進んで問題ありません。次に何を確認すべきかは、AIが生成したコード、そのまま公開して大丈夫かバイブコーディングの試作を、本番品質に引き上げる3つの視点 で扱っています。

作り直しを検討すべき状態

一方で、次のような兆候が重なっているときは、いったん立ち止まって作り直しを検討したほうが結果的に早く進めます。

  • 同じ種類の不具合が、直しても形を変えて再発する……表面上のバグを直すたびに、似た場所で別のバグが出てくる場合、原因は個別のコードではなく構造そのものにあることが多いです。
  • AIに「直して」と頼んでも、直らない・別の箇所が壊れる……これは土台が複雑になりすぎて、AI自身も全体を把握しきれなくなっているサインです。
  • 自分でも「なぜ動いているか」を説明できない箇所が、機能の中心にある……周辺機能ならまだしも、核となる処理がブラックボックスのままだと、この先の機能追加のたびに不安を抱えることになります。
  • 「後で直そう」と思った箇所が、すでに3つ以上ある……これは技術的な借金がすでに積み上がり始めているサインです。放置すればするほど、返済コストは大きくなります。

これらが1つだけなら様子見でよいですが、複数が重なっているなら、機能を追加する前に土台を作り直す判断をおすすめします。作り直しといっても、ゼロから全部書き直す必要はありません。核となる1〜2箇所を整理し直すだけで、残りの部分は流用できることも多いです。

判断に迷う場合、目安になるのは「今作り直すコスト」と「このまま進んで半年後に作り直すコスト」の比較です。後者は前者よりほぼ確実に大きくなります。これは 早く作るための妥協が、後で重荷になる「技術的負債」の正体 で詳しく扱っている考え方で、早い段階での見極めが後の負担を大きく左右します。

判断に迷ったときの簡易チェック

最後に、この段階で使える簡易的な判断表を置いておきます。

状態対応
核となる流れが再現性を持って動く/分からない箇所を言語化できるそのまま次のステップへ
小さな不具合が散発している程度直しながら進めてよい
同じ種類の不具合が再発する/AIも直せなくなっている核となる部分だけ作り直しを検討
核の処理がブラックボックス/後回しが3つ以上積み上がっている進める前に土台を整理する

ここでの判断は、あくまで「次に進んでよいかどうか」の一次判定です。実際に何を直し、どう本番品質に引き上げていくかの具体的な手順は、コラム側の各記事に譲ります。まずはこの判断軸で、今の試作がどちらの状態にあるかを確認してみてください。