専門性が絡む部分は、他の試作と同じようには扱えない

士業や医療職、その他の専門職の方がAIコーディングで試作を作るとき、多くの人がまず驚くのは「思ったよりずっと動くものができる」という手応えです。画面ができ、フォームが動き、データが保存される。ここまではAIとの対話を繰り返せば、非エンジニアでも十分に到達できます。

ただし、専門知識をサービスの核に据える場合、一般的な業務ツールとはリスクの質が違う場所が一つあります。それは「専門的な判定ロジック」です。料金計算、適否判定、リスクスコアリングなど、あなたの専門知識がそのままコードに翻訳される部分は、AIが「もっともらしく動くコード」を書けてしまうがゆえに、逆に危険が隠れやすいのです。

この記事では、AIコーディングにおいて「任せてよい部分」と「自分の目で必ず確認すべき部分」の線引きを整理します。

AIに任せてよい部分――画面と汎用的な処理

まず、次のような部分は基本的にAIに任せて問題ありません。

専門知識をサービス化する人がAIに任せてよい部分と自分で確認すべき部分を対比する図。画面・汎用処理と専門的な判定ロジック。

  • 画面のUI: フォームのレイアウト、ボタンの配置、レスポンシブ対応、色やフォントの調整
  • 汎用的な処理: ログイン機能、データの一覧表示・検索・並べ替え、CSV出力、メール送信の実装
  • 定型的な連携: 決済APIや地図APIなど、外部サービスとの一般的な接続コード

これらは専門分野を問わず「世の中の多くのアプリで似たパターンが使われている」処理です。AIの学習データにも大量の実例が含まれているため、精度が高く、仮に不具合があってもユーザーの目に触れやすく、誤りに気づきやすいという特徴があります。ボタンの位置がずれていれば誰でも気づけますが、これは専門知識がなくても検証可能な領域だからです。

バイブコーディングでの試作の進め方そのものについては、AIとの対話を繰り返して試作を改善していく、基本的な進め方 で扱っている基本のサイクルをそのまま当てはめて構いません。ここは通常のノリで前に進めてよい部分です。

自分で必ず確認すべき部分――専門的な判定ロジックの正確性

一方で、次のような部分は、AIの出力を鵜呑みにせず、専門家であるあなた自身が一行ずつ検証する必要があります。

  • 料金・報酬の計算ロジック: 端数処理、税率、割引条件の組み合わせなど、業務上のルールがそのまま数式やif文になっている部分
  • 適否・リスクの判定ロジック: 「この条件ならOK」「この組み合わせは危険」といった、専門知識に基づく分岐処理
  • 業法・ガイドラインに関わる表示や制御: 資格が必要な業務範囲を超えていないか、免責が必要な場面で警告を出しているか

なぜここが危ないのか。理由は単純で、AIは「文法的に正しく、動作するコード」を書く能力と、「あなたの専門分野における正しさ」を判断する能力が、まったく別物だからです。AIが生成したコードは一見整然としていて、テストデータを入れればそれらしい結果が返ってきます。しかし、境界値(ちょうど基準値と一致するケースなど)や、実務では頻出するのに一般的なパターンとは言えない例外条件については、AIが誤った前提で実装していても、動作テストだけでは発覚しないことが少なくありません。

これは AIの回答をそのまま信じて実装する前に、確認すべきこと で扱っている「AIの回答は自信満々に見えても根拠が薄いことがある」という性質が、判定ロジックの領域では特に強く表れるということです。UIのバグは「見ればわかる」ものですが、判定ロジックのバグは「専門知識がなければわからない」ものです。この非対称性こそが、専門家自身によるチェックが省略できない理由です。

確認の仕方――全パターンを自分の頭で通す

具体的な確認方法として、次の手順が現実的です。

  1. あなたの専門分野で実際に発生する判定パターンを、正常系・境界値・例外系に分けて書き出す
  2. それぞれのパターンをテストデータとして入力し、AIが実装したロジックの出力を自分の目で確認する
  3. 出力の根拠となっているコード(if文の条件式や計算式)を、AIに日本語で説明させながら自分でも読む
  4. 一つでも納得できない挙動があれば、修正が的確かどうかもあなた自身が判定できるまで、AIと一緒に潰し込む

このとき、AIが生成したコードをそのまま公開してよいかどうかという判断軸も併せて持っておくと安心です。この点は AIが生成したコード、そのまま公開して大丈夫か で整理されている観点と重なります。判定ロジックに限らず、「動いているから大丈夫」と「専門的に正しいから大丈夫」は別の話だと意識してください。

線引きの基準を一言でまとめると

任せてよいかどうかを毎回悩まないために、基準を一つだけ持っておくと判断が速くなります。

「間違っていたときに、専門知識がない人でも気づけるか」

気づけるなら(UIのズレ、表示の乱れなど)、AIに任せてスピードを優先して構いません。気づけないなら(専門知識がある人にしか判断できない計算・判定)、必ず自分の目を通してください。

詳細はコラムへ

この記事で触れた個別のトピック――AIとの対話の進め方、AI回答の検証方法、コード公開前の判断基準――は、いずれもコラムでより実務的に掘り下げています。今の自分がどの段階でつまずいているかに応じて、該当のコラムを読み進めてください。判定ロジックの検証は地味な作業ですが、専門知識を武器にするサービスだからこそ、ここを飛ばさないことが最終的な信頼につながります。